【交通事故処理に必要となる改正民法の知識】不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の起算点・時効期間編

巷で話題となっているとおり(?),今般,民法が大改正が行われ,2020年4月1日から改正民法が施行されることになりました。

改正点は多岐にわたるところ,交通事故についても,同日以降は当然に改正民法に服することになります。

そこで,2020年4月1日以降に発生した交通事故は,改正民法に従って処理されますので,改正民法について,交通事故処理に必要と思われる点を,論点ごとに紹介して行きます。本稿はその第2稿として,不法行為による損害賠償請求権の消滅時効期間・時効期間の説明をいたします。

改正前民法(2020年3月31日まで)

改正前民法では,不法行為による損害賠償請求権の消滅時効については,以下のとおりであるとされていました(改正前民法724条)。

①主観的起算点から起算する消滅時効

不法行為による損害賠償請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知ったとき(主観的起算点)から3年で援用により消滅する。

②客観的起算点から起算する除斥期間

不法行為による損害賠償請求権は,不法行為時(客観的起算点)から20年で当然に消滅する。

判例・通説では,不法行為時から20年での消滅は,消滅時効ではなく除斥期間であるとしたため(最判平成元年12月12日・民集43巻12号2209頁),時効中断がなく,また当事者の援用も不要とされていました。また,援用が不要であるため,信義則違反や権利乱用による制限も問題とならないとされていました(最判昭和41年4月20日・民集20巻4号702頁,最判昭和51年5月25日・民集30巻4号554頁)。

改正前民法724条
不法行為による損害賠償の請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは,時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも,同様とする。

改正民法(2020年4月1日から)

前記の不法行為による損害賠償請求権の消滅について,今般の改正により,以下の2点が改正されました。

①主観的起算点から起算する消滅時効について,原則論はそのままに,生命又は身体の侵害による損害賠償請求権について時効期間を延長し,また②客観的起算点から起算するものを長期消滅時効と構成しました。

この改正によって,2020年4月1日以降に発生した交通事故においては,損害賠償請求権の消滅については,以下のとおりとされることとなりました。

①主観的起算点から起算する短期消滅時効

不法行為による損害賠償請求権が物的損害の場合,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知ったとき(主観的起算点)から3年で援用により消滅する(改正民法724条1号)。

例外的に,不法行為による損害賠償請求権が人的損害の場合,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知ったとき(主観的起算点)から5年で援用により消滅する(改正民法724条の2:新設)。

②客観的起算点から起算する長期消滅時効

不法行為による損害賠償請求権は,物的損害であっても人的損害であっても,不法行為時(客観的起算点)から20年で援用により消滅する(改正民法724条2号)。

不法行為時からの消滅について,今般の法改正は,従来の判例・通説であった除斥期間という考え方を否定し,明文をもってこれを消滅時効に法律構成を変更するという思い切った変更ですので,実務家からは驚きをもって迎えられるのではないでしょうか。

今般の改正によって,不法行為時から20年での消滅は,除斥期間ではなく消滅時効であるとされたため,時効の中断・更新・完成猶予・信義則・権利濫用という各種抗弁主張が可能となり,これまでのような苦肉の策的な法解釈が必要でなくなったことが評価に値するということでしょうか。

改正民法724条
不法行為による損害賠償の請求権は,次に掲げる場合には,時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
二 不法行為の時から20年間行使しないとき。

改正民法724条の2【新設】
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1号の規定の適用については,同号中「3年間」とあるのは,「5年間」とする。

具体的な運用は,判例の集積を待つこととなるのですが,この法改正によって紛争の妥当な解決が進むことが期待されます。

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