【交通事故処理に必要となる改正民法の知識】相殺適状編

巷で話題となっているとおり(?),今般,民法が大改正が行われ,2020年4月1日から改正民法が施行されることになりました。

改正点は多岐にわたるところ,交通事故についても,同日以降は当然に改正民法に服することになります。

そこで,2020年4月1日以降に発生した交通事故は,改正民法に従って処理されますので,改正民法について,交通事故処理に必要と思われる点を,論点ごとに紹介して行きます。本稿はその第1稿として,相殺適状の説明をいたします。

改正前民法(2020年3月31日まで)

改正前民法では,不法行為によって生じた債権を受働債権とする相殺を一律禁止していました(改正前民法509条)。

その趣旨は,被害者に現実の給付を得させることによる被害者保護と,不法行為の誘発防止であるとされていました。

改正前民法509条
債務が不法行為によって生じたときは,その債務者は,相殺をもって債権者に対抗することができない。

交通事故によって発生する債務は,不法行為に基づくものですので(民法709条等),改正前は,この規定によって,双方に過失が認められる交通事故の場合,法形式上は,人身事故・物損事故の区別なく,全て双方の請求を立てて別々に処理をする必要がありました(訴訟による処理の場合,一回的解決をするためには,双方が訴訟提起をしなければなりませんでした。)。

このことは極めて迂遠であり,被害者保護と不法行為の誘発防止が図れるのであれば,これを徹底する必要がないのではないかという問題意識から,今般の民法改正によって,同規定が改正されることとなったのです。

改正民法(2020年4月1日から)

この点,改正民法では,不法行為によって生じた債権を受働債権とする相殺を一律禁止するのではなく,悪意による不法行為に基づく損害賠償債務及び人の生命又は身体の侵害による不法行為に基づく損害賠償債務を受動債権とする以外の場合には,不法行為による損害賠償債務であっても受働債権として相殺することを可能としました(改正民法509条)。

改正民法509条
次に掲げる債務の債務者は,相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし,その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは,この限りでない。
一 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務
二 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く。)

この規定によって,2020年4月1日以降に発生した双方に過失が認められる交通事故の場合,文言上は,「物的損害分については,」悪意等によって交通事故を惹起したものではない通常の事故の場合には,相殺が禁止されないこととなりました。

なお,同改正によっても,人的損害分についての相殺が認められないことについては,改正前民法と違いはありません(改正民法509条2号)。

具体的な運用は,判例の集積を待つこととなるのですが,この法改正によって紛争の簡易・迅速な解決が進むことが期待されます。

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