交通事故に起因するむち打ち損傷(脱臼骨折のない頚椎捻挫・外傷性頚部症候群)の発生メカニズムと組織修復期間の目安について

交通事故被害者には,結構な割合で明らかな骨折や脱臼を伴わない頚椎支持軟部組織(靭帯,筋肉,椎間板等)の損傷を主体とするむち打ち被害が発生します。

特に追突事故による受傷事案については,ほとんどがこのむち打ち損傷が問題となっていると思われます。

そこで,本稿では,以下,むち打ちの場合の頚部損傷のメカニズムと,受傷後組織修復までのメカニズムについて,交通事故処理に必要な限度で,できる限りわかりやすく説明をします(なお,厳密な意味での医学的見解と異なる場合がありますのでご容赦ください。)。

交通事故に起因する頚部損傷のメカニズム

むち打ち損傷の受傷機転

むち打ちのメカニズムとしては,追突等による衝突の衝撃によって,頭部に加えられた慣性により,それを支えている可逆性のある頚椎に介達力が働き,過屈曲・過伸展が生じることにより,生理的な可動範囲を超えた動きが生じて頚部組織が損傷するとされています。

単純化すると,追突→頚椎圧迫→伸展→屈曲→伸展→屈曲・・・という状態が発生します(ダミー人形や生体実験の結果,実際には非常に複雑な運動をすることが確認されていますが,本稿では単純化して説明します。)。

もっとも,今日では,ヘッドレストによって,過伸展が生じる程度は大きくなくなっており,必ずしも前記状態が発生するものではありませんが,あくまで概念として考えて下さい。

また,低速度衝突事故・軽微追突事故でもむち打ちによる頚椎捻挫症状が発症するかという論点も存在しています。

過伸展・過屈曲により損傷され得る組織

頚部に過伸展・過屈曲が生じることによって,主に以下の組織に複合損傷が発生し得ます。

伸展時:特に頚椎前方の支持組織(胸鎖乳突筋,頚長筋,前縦靭帯,椎間板等)に損傷が生じうる。

屈曲時:主に頚椎後方の支持組織(項部筋,棘上・棘間靭帯,椎間関節包,黄色靭帯,椎間板)に損傷が生じうる。

症状に基づいた頚部損傷の分類(古典的分類)

むち打ちにより頚部に傷害が発生した場合,損傷箇所により以下のとおりに分類されます。

① 頚椎捻挫型(狭義の頚椎捻挫)

頚部を支持する筋肉・靭帯の損傷を主体とした原則として神経症状がない頚部損傷をいいます。頚部痛・頭痛・上肢のだるさなどの自覚症状が中心で,他覚的な神経症状を認めないものです。

② 神経根症型

自覚症状に加え,脊髄から分かれた神経根に損傷がある頚部損傷をいいます。

脱臼・骨折がなくとも神経根損傷はあり得ますが,疾病としての神経根症との区別が不明瞭であり,判断が難しい類型といえます。

③ 脊髄症型(脊髄損傷型)

自覚症状に加え,脊髄実質の損傷がある頚部損傷をいいます。

完全四肢麻痺を呈する完全損傷と,運動あるいは近くが多少なりとも温存される不(完)全損傷とに分かれ,将来に亘ってつらい状況が続くこととなる類型です。

この類型は,本稿で検討するむち打ち症状ではありませんので,詳しい紹介は控え,本稿では,①狭義の頚椎捻挫型と②神経根型について検討します。

付される傷病名

初診時の診断・レントゲン撮影により,以下の区別がなされます。

① 脱臼・骨折を伴う場合

→症状に応じた傷病名が付される。

② 明らかな脱臼・骨折を伴っていない場合(本稿の検討対象)。

→一般的に,主に頚部のみの症状の場合は頚椎捻挫,頭痛・痺れ等を伴う場合は外傷性頚部症候群の傷病名が付されます。

骨傷のない頚部損傷(むち打ち:頚椎捻挫・外傷性頚部症候群)の発生から修復までのメカニズム

外傷分類

①1次損傷:事故時の外力による直接の損傷です。

②2次損傷:1次損傷後に起こる2次的な組織損傷で,炎症反応が主体となります(完成までに48時間を要する。)。

軟部組織損傷・修復のメカニズム

① 急性期初期(~2週間)

外力によって軟部組織に外力が加えられた場合,当該が威力による直接の損傷と,その後48時間以内に生じる炎症反応により,概ね48時間以内に,最大の症状が発生します。

この時期の症状の特徴としては,頚部の痛み,腫れぼったさ,熱っぽい感じ,運動痛,運動制限,頭痛と主に後頭部の頭重感,めまい・目のかすみ・耳鳴りなどの自律神経症状,腕の痺れ等が挙げられます。

② 急性期後期(~4週間)

頚椎運動機能の回復が始まり,痛みの部位の限局化,痛みの運動方向の限局化,自律神経症状の明確化,神経根症状の明確化等が生じていきます。

③ 亜急性期(~3カ月)

事故後約2ヶ月の期間を経て,損傷された組織が新たな組織に入れ替わることによって修復されるという治癒過程(医学的事実)を経ます。

そして,その後約1カ月間の機能回復期間が考慮される結果,修復に要する期間は3カ月とされています。

この約3カ月の組織修復期間を亜急性期と呼んでいます。

この頃の特徴としては,頚部の運動性の回復,運動痛の軽減,自律神経・神経根症状の軽減が見られます。

終わりに

以上のとおり,骨折・脱臼のないむち打ち症状については,医学的に見ると3カ月程度の経過によって治癒又は症状変化が認められなくなるはずなのです。

ところが,頚椎症状を訴える交通事故被害者のうち,結構な割合の方において,6ヶ月を超えても愁訴が存在するという長期化・慢性化した通院治療がなされる事案が散見されます。

この慢性化の原因としては,患者側の要因,医療側の要因,社会的な要因等様々な要因が絡み合うことが多く,治療の慢性化がが賠償上も困難な問題として立ちはだかります。

以上,参考にしてください。



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