判例による過失相殺減額の適用拡大(過失相殺能力の緩和・被害者側の過失)と歯止め

交通事故により他人に損害を及ぼした場合に賠償責任を負う根拠は,主に不法行為に基づく損害賠償責任です(民法709条)。

不法行為に基づく損害賠償責任は,過失責任であり,被害者に過失があった場合には,過失相殺がなされます。

この点,一般に,人が過失行為により責任を問われる理由は,その人が過失のない行為を選択する能力(この能力を一般に責任能力といい、判例は通常11~12歳ころに備わるとするものが多い。)があることが前提となっています。

そのため,この理論を徹底すると,被害者の行為を斟酌して過失相殺をするためには,被害者の年齢が概ね11歳以上である必要があることになり,それ以下の場合には被害者の過失を問えないという結論となり得ます。

被害者の過失による過失相殺減額の適用拡大

もっとも,このように解釈すると,例えば、被害者の年齢が12歳か,8歳かによって,過失相殺がされるかされないか変わってしまうため,同じ加害行為であるにもかかわらず,加害者の賠償額が大きく変化してしまうことになり,結論の妥当性が認められません。

そこで、裁判所は,被害者も過失責任を負うか否かか(過失相殺がなされるか否か)について,前記の過失責任の本質論にあらたな理論を加えてこれを修正し,過失相殺減額の適用拡大をしています。

① 過失相殺能力の緩和(責任能力を不要としたことにより,過失相殺をする際被害者の年齢は5~6歳程度で足りるとした)

判例は,被害者の過失相殺能力について,責任能力を不要とし,事理弁識能力で足りるとしました(最判昭和39年6月24日・民集18巻5号854頁)。

そして,事理弁識能力については,多くの裁判例は,5~6歳ころに備わるとしています。

そのため,この理論により,被害者が10歳程度の子供であり,その子の過失であったとしても,過失相殺がなされることとなりました。

もっとも,この理論でも,例えば、被害者の年齢が3歳であれば,過失相殺ができなくなり,同じ加害行為をした加害者の賠償額が大きく変化してしまうという結論になり,結論の妥当性が認められません。

そこで,裁判所は,思い切った理論構成をして,被害者本人の過失相殺能力なく過失相殺をしうる途を開きました。

② 被害者側の過失論(被害者本人の能力を無視し,その関係者の誰かに過失があれば過失相殺ができるとした→被害者は0歳児でもよいとした)

さらに,判例は,「被害者側の過失」法理を構築し,被害者と一定の関係のある者の過失を被害者の過失ととらえることとし,被害者本人の過失のみならず,一定の関係者の過失を被害者の過失と擬制することにしました。(最判昭和42年6月27日・民集21巻6号1507頁)。

これにより,被害者の年齢を問わずに、被害者の行為を適切に監督しなかった関係者の過失をもって,被害者自身の過失とできることとなりました。

被害者の過失による過失相殺減額の適用拡大に対する歯止め

もっとも,判例は,前記①,②について,無限定に拡大するのではなく,一定の歯止めをかけています。

過失相殺減額の適用拡大に対する歯止めは,以下のとおりです。

①  過失相殺能力被害者の適用についての歯止め

過失相殺能力について,被害者に責任能力は不要としながらも,事理弁識能力は必要としました。

② 被害者側の過失論についての歯止め

被害者と一定の関係のある者について,身分上,生活関係上,被害者と一体をなす関係である者としています。

まとめ

以上のとおり,裁判所は,適宜過失相殺法理の適用を拡大し,またその拡大志向に歯止めをかけることによって,損害の公平な分担という,損害賠償の趣旨に沿った事案解決を図っているようです。

以下,まとめ表です。参考にしてください。

拡張のための理論付け 歯止め
過失相殺能力の緩和

【被害者が5~6歳でも過失相殺可能】

被害者側に責任能力を不要とした。 被害者側に事理弁識能力は必要とする。
被害者側の過失論

【被害者が0歳でも過失相殺可能】

被害者と一定の関係のある者の過失を被害者の過失ととらえる。 一定の関係のある者について,身分上,生活関係上,被害者と一体をなす関係である者として縛りを加える。



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