【弁護士の仕事術】全ての法律・判例を覚えている法律家(裁判官・検察官含む)は存在しない

言うまでもなく,弁護士の仕事は,依頼者のために法律を適用・運用することです。

そのため,ほとんどの弁護士は,日夜法律や判例の勉強を積み重ねています。

かくいう私も,法律や判例の集積・理解に相当の時間と費用を費やしています。

が,断言します。

六法全書の全てを覚えている弁護士はいません。

また,全国の裁判所で言い渡される判例や,細かい法律改正を全て網羅している弁護士もいません。

量が多すぎて,絶対に不可能です。

多くの人から,細かい法律まで勉強して大変ですねとか,六法全書をどうやって覚えるんですかと聞かれたりしますので,弁護士は判例や法律を網羅しているものだと考えている方がおられますが,あり得ません。

それどころか,弁護士が依頼者のために法律を適用する上で,六法全書を覚える必要も,細かい法律を網羅する必要もありません。

弁護士の仕事内容

法律には通常序列があり,一般的には基本となる法律に,基本条文の形で基本となる考え方が規定されています。

その上で,基本法の中に基本条文を具体化する条文や例外規定を定める条文があり,さらに,基本法に対応する特別法があり,さらに基本法を具体化していく構造となっています。

すなわち,法律の適用を考える際は,基本法の基本条文→基本法の応用条文→特別法(+手続法・判例)の流れで考えていきます。

そして,法律の重要性も基本的にはこの順番です。最も大事なのは,基本法の基本条文です。

基本条文を理解できてれば,その法律分野での基本的考え方が理解できます。

その法分野の基本的考え方,すなわち基本的な法の構造が理解できてれば,その派生・応用である細かい話は,法律の趣旨に従った構造になっているはずですので,法的解釈の方向性がわかりますので,相談等の場合における当面の対応が可能です。細かい条文は,相談中やその後に調べれば事足ります。

以上が,弁護士の本質です。弁護士の仕事をしていく上では,基本法を理解していれば全ての法律を覚えている必要などないのです。後で調べれば十分です。

島田紳助(「紳竜の研究」というDVD)の話を参考に

このことについて,島田紳助氏が,2007年3月にNSCで漫才師を目指す若手向けに行った授業で端的にわかりやすく説明していましたので,紹介したいと思います。なお,島田紳助氏は,社会的に色々問題となった人ですが,話術もビジネスセンスもずば抜けた人であり,ためになる書籍も複数出版されています。特に,このDVDに収められた講義は,漫才師を目指す人のためになされたものですが,ビジネスの世界で生きている我々にとってもとても参考になる内容が満載です。

本稿に関連する内容は,このDVD内に収められた講義のうち,「TVのヒミツ」と題するテーマです。

このテーマは,芸人がテレビ業界の中で生きていくテクニックを説明するものであり,簡単に要約すると,テレビという枠の中で知識人として認知してもらうためには,1つの分野につき,1つのテーマだけを深く掘り下げて理解し,他の分野については,言い訳等でごまかしてしまえば十分というものでした。

特定の分野のスペシャリストではない芸人が,トークテーマの全てを理解したうえで話ができないというデメリットを補って,自身をかしこく見せるためにテクニックです(なお,私が説明するよりもDVDを見る方が100倍わかりやすいと思います。)。

このことは弁護士にとっても同じです。

全ての法律・判例をリアルタイムに理解することが物理的に不可能である弁護士は,法分野の基本的考え方,すなわち基本的な法の構造を深く掘り下げて理解していれば,直面する法的危機に迅速に対応でき,それに付随する応用分野については,少し時間をおいて調査をすれば足りるということです(さすがに,芸人のトークのように言い訳でごまかしてしまうことは出来ませんが,追っての対応とすることは可能です。)。

弁護士にとっては,あまりに当たり前の話ですが,前記DVDを見た際に,同じような内容をわかりやすく話されていて,他の業界でも同じような世界観で仕事が行われていることに驚かされましたので,紹介させていただきました。

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