刑罰を科されるとはどういうことか(刑法等の刑罰法規に反したことを刑事訴訟法に基づく刑事裁判手続きで認定されてはじめて刑事罰を受けることになる意味)

ある人が犯罪を犯した場合,警察・検察という捜査機関が集めた証拠を基に,裁判所の判断がなされてはじめて刑罰が科されます。例外はありません。

すなわち,刑罰権は国家において独占されており,国民による私的制裁は禁止されています。

では,この刑事罰を受けるという意味について,この刑罰権の行使についての基本的な考え方・問題点の順に簡単に説明します。

刑事手続きについての基本的な考え方

日本の刑事手続きを語る上で絶対に外せない大前提があります。

それは,無実の者を罰してはいけないという要請です。

人権侵害の最たるものといえる刑罰を,無実の罪で科されてはたまったものではありませんので,当然の話です。

実は,これに加えて,刑事事件手続きを語る上で外せない原則がもう1つあります。

罪を犯したものは残らず罰しなければならないという要請です。

前記の通り,国は個人から刑罰権の委託を受け(取り上げ)て個人による私的制裁を禁止しているのですが,その理由は,国家秩序の維持のために犯罪者に対する処罰を国家権力に任せてもらうとの黙示の約束によるものだと考えられています。

簡単に言えば,国が犯罪者を処罰するので,個人が犯罪者を処罰することはやめてもらうという約束が国と国民の間になされていると考えるということです。

そのため,国民個人による犯罪者に対する私的制裁を禁止させるために,犯罪者に対しては,国によって残さず刑罰を科さなければならないとの結論になるのです。

刑事事件についての事件処理は,この無実の者を罰してはならないという謙抑的な要請と,有罪の者を残さず罰しなければならないという積極的な要請とがバッティングする極めて難しい状況下で行われます。

刑罰を科すための法構造

刑法を中心とする刑罰法規(実体法)

我が国では,そこに存在する者の全ての活動が憲法という国家権力に加えられた歯止めの範囲内で定められた法律によって規制されています。

そして,法律は,基本的には,要件(…をしたら)と,効果(…となる)として規定されています。

このことは,刑罰について定められた法律も同様です。

刑罰について定められた法律を,刑罰法規といい,…という行為をした者は,…の刑に処するという形で規定されています。

例えば,傷害罪について見ると,刑法204条で,「人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」と規定されています。

これは,「人の身体を傷害」するという行為をした場合,「十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」という刑罰が科されうるという効果が生じるということをうたっているのです。

なお,ある行為を犯罪として行為者を処罰するためには,立法府が制定する法律において,犯罪とされる行為の内容,及びそれに対して科される刑罰を予め規定しておかなければならないとされています(罪刑法定主義)。罪刑法定主義の観点から,行政庁が定める省令・通達・行政指導等で刑罰を科すことはできません。また,刑罰法規としては,刑法が有名ですが,これに限ったものではなく,商事犯罪であれば商法等に,税務犯罪であれば税法等に規定されるなど,様々な法律に規定されています。

刑事訴訟法を中心とする手続法

そして,前記の刑罰法規に該当する行為があったか否かを,刑事訴訟法に基づく刑事訴訟手続きによって判断されます。

刑事訴訟法は,主に捜査と公判(刑事裁判)について規定されているのですが,刑罰権の恣意的発動がないよう,それぞれの手続きにおいて相当の配慮がなされています。

一例を挙げると,捜査について見れば,捜査機関による捜査は任意捜査を原則とし,例外的に強制捜査を行う場合には,裁判所が発する令状を必要とすること(令状主義)などが挙げられます。

また,公判について見れば,刑事裁判手続きを詳細に明文化することによって手続きの一部たりとも省略することができないこととし,取調べができる証拠を制限した上で,客観的に信用しうる証拠によってのみ事実認定を行うことができるとされています。また,被告人の自白のみで有罪となることはないともされています。

現行法の問題点


以上のとおり,日本では,刑罰の範囲について,実体法で厳しく制限し,またこれを厳しく制限された手続法にのっとった捜査・公判手続きにおいて判断した上で,刑罰を科すことができることとなります

この実体法と手続法に二重の厳しい制限が存在していることそれ自体は,無実の者を罰してはいけないという要請から見て,とてもいいことです。

恣意的刑罰権の発動によって,数多の人権侵害が行われてきた過去に対する反省とされる,極めて優れた考え方です。

ところが,この二重の制限にも一定の問題点があります。

刑罰法規が制限的過ぎて新しい犯罪が起きても,それに対する刑罰規定が明文化されないと対応できないこと,また手続き規制が厳し過ぎて被疑者・証拠の確保が困難となることがなどがあり得るのです。

この問題点は,国が国民に私的制裁を禁止して刑罰権行使を独占化するためになされた,犯罪を犯した者に対しては,すべからく刑罰を課さなければならないという国民との約束を反故にすることに繋がります。

その結果として,捜査機関に対して,国民感情を充足させるためとしいう目的の下,法律に違反する行き過ぎた捜査をさせる動機付けともなってしまいます。

これが,大きな問題点となります。

以上,簡単ではありましたが,刑罰を科されるとはどういうことかについての説明でした。最後まで読んでいただき,ありがとうございました。

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