民事訴訟における移送と回付の違いとは(異なる管轄裁判所への移送申立てと同一管轄裁判所【本庁・支部間】への回付上申)

民事裁判を提起する際,審理を求める裁判所については,原告側が,管轄権を有する裁判所の中から1つ選んで決定します。
そのため,民事訴訟においては,訴え提起時に原告において決定された裁判所で第1審の審理・判決がなされるのが原則です。

もっとも,第1審が始まった後で,何らかの事情によって係属する裁判所が変更されることがあります。

管轄が異なる裁判所への事件移転は「移送」と呼ばれ,民事訴訟法にその根拠規定がありますが,同じ管轄内での事件移転は「回付」と呼ばれ,裁判行政上の一概念にすぎない扱いとなりますので,移送と回付では法律上の扱いが全く異なります。

そこで,以下,移送と回付について簡単に説明します。

移送とは

民事訴訟においては,裁判所は,係属している事件を異なる管轄裁判所へ移転・送致をすることができます。この異なる管轄裁判所への事件移転を移送といいます

移送には,主に以下の4つの類型があり,裁判所の職権のみならず,当事者の申立てによっても認められています。

当事者が移送を申し立てる場合には,「移送申立書を裁判所に提出する」ことになります。

①管轄違いによる移送(民事訴訟法16条1項)

原告が誤って管轄のない裁判所に訴えを提起した場合,被告の管轄の利益を害することなく原告の不利益(再提起費用や時効中断の利益等)を救済するため,申立て又は職権で,受訴裁判所がその訴訟事件を管轄裁判所に移送することができるとされています。

②遅滞を避けるための移送(民事訴訟法17条)

民事訴訟法が普通裁判籍と合わせて多くの特別裁判籍を規定していることから,1つの訴えについて複数の管轄裁判所が競合し得ます。その場合,原告がその1つを選択して訴え提起をするのですが,その選択が必ずしも適切かどうか限りません。

そこで,第1審裁判所は,訴訟がその管轄に属する場合であっても,訴訟の著しい遅滞を避け,又は当事者の衡平を図るために必要があると認めるときは,申立て又は職権で,その訴訟事件の全部又は一部を他の管轄裁判所に移送することができます。

③簡易裁判所から地方裁判所への移行(民事訴訟法18条)

少額軽微事件を簡易迅速に解決することを目的として設置されている簡易裁判所において,その趣旨に適合しない訴えが提起された場合,地方裁判所に移送することができるとされています。

なお,移送方法としては,裁量移送(民事訴訟法18条),不動産訴訟の必要的移送(同法19条2項本文),反訴提起に基づく必要的移送(同法274条)があります。

④当事者の申立て・同意による必要的移送(民事訴訟法19条)

簡易裁判所・地方裁判所を問わず,当事者の申立て及び相手方の同意があるときは,原則として申し立てにかかる地方裁判所又は簡易裁判所に移送しなければならないとされています。

この移送を必要的移送と言います。

もっとも,当事者の申立て又は同意による必要的移送については時期的制限があり,第1回口頭弁論後は当事者間に合意があっても移送をすることができませんので注意が必要です。

回付とは

地方裁判所は,本庁と支部とが一体となって1つの管轄裁判所を構成していると考えられているため,本庁と支部は同一裁判所内の分掌である事務分配にすぎず,司法行政の問題ですので,管轄のような訴訟法上の効果を持つものではないとされています。

そのため,本庁と支部との間や支部相互間では,移送という概念が成り立ちません。

もっとも,同じ管轄内でも事件を移すことは可能で,同じ管轄内である本庁と支部との事件を移転させること自体は可能であり,同一管轄内での事件移転を回付といいます(同じ裁判所内での係属部の変更も同じ管轄内の事件移動のため回付です。)。

この点,回付は,あくまでも裁判所内部での事務分配の問題に過ぎないと考えられていますので,ここに当事者の意思が入る余地はなく,当事者において回付の申立てをすることはできません。

もっとも,裁判所に職権発動を促すことはできないわけではありませんので,当事者が,本庁から支部へ,支部から本庁へ,他の支部への回付を求める場合には,回付を求める「上申書を裁判所に提出する」のが実務上の扱いになります(これまでに私が回付上申をした回数は数回程度しかありませんが,相手方の同意がある場合に,回付が認められなかったことはありませんので,比較的に緩やかな運用がなされているイメージです。)。

以上,弁護士であっても知らない人も多いのではないかと思われるマニアック過ぎる論点でした。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA