地震・台風等の自然災害によって勤務先に出勤できず休業に至った従業員に給与は支払われるのか

日本は,諸外国と比べると,圧倒的に自然災害が発生しやすい国だといえます。

地震,津波,噴火,台風,大雨,洪水,土砂災害など数え出したらきりがありません。

世界で起こるマグニチュード6以上の地震の2割が日本で起きるとも言われており,このリスクは今後も減ることはありません。

では,このような自然災害の発生によって勤務先に出勤することが出来なかった場合,従業員の給与はどうなってしまうのでしょうか。

なお,本稿は自然災害の場合について説明するものであり,伝染病蔓延を原因とする休業については,別稿:新型コロナウイルス等の伝染病蔓延の影響で休業に至った労働者の賃金減額の有無についてをご参照ください。

雇用契約書や就業規則に定めがある場合

労働者と使用者との間で締結される雇用契約は,法律的に言うと,労働者が労務を提供し,これに対して使用者が賃金を支払うという,諾成・有償・双務契約と解釈されます。

契約ですので,労働契約の内容すなわち労働条件は,労働者と使用者との労働契約の取り決め従うこととなります。

この点,労働契約の内容は,勤務先会社に就業規則の定めがなければ雇用契約書によって,就業規則に定めがあれば就業規則によって決せられるのが一般的です(労働契約法7条本文)。

そこで,自然災害の発生により勤務先に出勤することが出来なかった場合,雇用契約書や就業規則に従業員の給与をどうするかについての定めあった場合には,その定めに従うこととなります。

雇用契約書や就業規則に定めがない場合

では,雇用契約書や就業規則に,自然災害の発生により勤務先に出勤することが出来なかった場合に従業員の給与をどうするかについての定めがない場合には,出勤できなかった分の従業員給与はどうなるのでしょうか。

出勤しなくても給与が出るのか(損失を使用者が負担するのか),出勤しないと給与が出ないのか(損失を労働者が負担するのか)が問題となります。

使用者の責めに帰すべき理由により労働者が勤務できなかった場合には,労働者は平均賃金の60%以上を受領できるとの規定がありますが(労働基準法26条),自然災害等の双方の責めに帰すべき理由がない場合によって労働者が勤務できなかった場合には,労働者が給与を受け取れないと考えられています(民法536条1項)。

この民法536条1項は,双務契約に適用される一般原則ですが,労働契約に当てはめた場合には,「ノーワークノーペイの原則」と言われます。

労働契約的に言うと,働かなければ給料はもらえないという原則です。

以上から,自然災害の発生により勤務先に出勤することが出来なかった場合,雇用契約書や就業規則に従業員の給与をどうするかについての定めがなかった場合には,従業員は給与を受け取ることはできないこととなります。

補足(適切でない出勤命令に対する対応について)

補足として,以上の事例と逆の発想として,自然災害等によって本来は出勤すべきではない状況と考えられるのに,勤務先から出勤命令が出た場合どうなるか検討します。

使用者は,従業員に対する指揮監督権を持っていますので,従業員労働者は,使用者から出された業務命令である出勤命令に対しては,原則として応じなければならない義務があります。違反すると,懲戒処分の対象となり得ます。

もっとも,自然災害等によって,労働者の生命・身体に危険が及ぶ可能性がある場合には,出勤命令に従わなければならないとすることは妥当ではありませんので,かかる場合には出勤命令に従う必要がないと解釈され得ます。

疑問点があれば,お近くの弁護士にご相談ください。

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