賃貸アパート経営をしておられる大家さんの中には,生活保護を受給されている方に部屋を賃貸されている方も多くおられると思います。
生活保護を受給されている方は,生活費に困っていることが通常ですので,住宅扶助を受けていても他の生活費等に流用し,家賃を滞納する場合があります。住宅扶助を受けているからといって,必ずしも住宅扶助で家賃を支払ってくれるとは限りません。
大家にとって,この心配を払しょくしてくれる制度があります。住宅扶助の代理納付制度です(生活保護法37条の2)。
住宅扶助代理納付制度とは
住宅扶助の代理納付制度とは,一言でいうと,住宅扶助(生活保護のうちの1つ)受給者世帯が居住する民間賃貸住宅の賃料等について,役所が,受給者に交付することなく,生活保護受給者に住居を賃貸している大家へ直接支払ってくれる制度です。
これにより,大家さんとしては,賃借人たる生活保護受給者の住宅扶助費の使い込みによる家賃滞納の危険を払しょくできますので,安心して生活保護受給者に賃貸することができます(なお,生活保護受給者における家賃滞納以外の問題点については,本稿では割愛します。)。
また,大家さんの家賃滞納の心配を払しょくできるため,生活保護受給者が,部屋を借りやすくなるというメリットもあります。
おそらく,生活保護受給者世帯との間で賃貸借契約が締結されている場合,2~3割は,この制度が利用されているのではないでしょうか。
なお,生活扶助の代理納付制度は,元々は,生活保護受給者の方が障害等により,銀行や大家さんの下に赴いて家賃の支払いをすることが困難である場合に,その不都合性を取り除くために設けられたともいえるのですが,実際には,生活保護受給者の使い込みを封じるために利用されているというのが現状です。
弁護士としての観点からみると,代理納付制度は,事実上,大家さんによる,生活保護受給者の住宅扶助請求権に対する差し押さえとも思えますので,制度に対する疑問が無きにしも非ずですが,生活保護受給者世帯にもメリットのある制度ですので,良しとされているということでしょうか。
代理納付制度の申請手続き
住宅扶助の代理納付の手続きは,とても簡単で,必要書類を保護実施機関に提出するだけです。
もっとも,この手続きは代理納付を希望する大家さんによって行われますが,賃借人たる生活保護受給者の同意書の提出が必要となります。
自治体によっては,代理納付制度を採用していないところもあるようですので,手続きに疑問があれば,役所に電話をするかホームページを確認してみてください。