我が国では,ペットを飼われている方が多く,ペットを実の子のように可愛がっておられる方も少なくありません。
ペットの中では,犬を飼っておられる方が多いと思いますますが,犬を飼うと散歩が必要となり外に連れ出す機会が多くなるため,必然的に,一定の割合で,ペット(犬)も交通事故に遭います。
本稿では,ペットが交通事故被害に遭った場合,損害積算上どのように扱われるかについて検討したいと思います。
【目次(タップ可)】
ペットは法律上は物として取り扱われる
法律上,権利・義務の主体となれるのは自然人と法人に限られています。
そのため,法律上,ペットは「物」として扱われます(民法85条)。
生きていて,感情があり,体温も感じられるので,ペットを物として扱うことに違和感を感じられるかもしれませんが,法律上は所有の対象に過ぎないのです。
そのため,ペットが,自身で何かを所有することはできませんし,自身を名宛人として損害賠償請求をすることもできません。
ペットの損害について,損害賠償請求権を有するのは,ペット自身ではなく,飼い主となります。
ペット損害賠償における損害積算方法の原則
交通事故被害に遭ったペットの損害について考えてみるに,ペットが物として扱われる以上,ペットの治療費という概念はありません。ペットの治療費を法律的にいうと,ペットの修理代です。さらに言えば,ペットに後遺障害という概念もありません。
そのため,ペットが交通事故に遭った場合には,修理代(治療費)と,全損時価額とを比べて安い方の金額が損害賠償額となるのが原則です。
そして,ペットは,通常購入時が一番高額で,そこから平均余命に応じて減価償却する扱いとなりますので,交通事故被害に遭ったときの時価額は僅少になるのが一般的です(購入ではなく,貰った・拾った場合には無価値とされる場合もあり得ます。)。
飼い主にとって家族として一緒に過ごしたかけがえのない時間は,ペットの市場価値を低減させる要素にしかならないのです。
他方,ペットには健康保険制度がないため,その治療は全て自由診療となり,治療費は高額となるのが一般的です。
以上,ペットの価値は低く評価される一方で,治療費は高額に上るため,ペットが交通事故に遭ったほとんどの場合,飼い主は,加害者から満足のいく賠償金が受け取れない結果となります。
ペット損害賠償における損害積算方法の修正
以上が,ペット損害の原則ですが,これを徹底すると,あまりにペットの飼い主に酷であり,公平を失する結論となり得ます。
そこで,裁判例・判例では,前記原則に一定の修正を加えています。
すなわち,ペットが被害に遭った場合,前記の修理代(治療費)又は全損時価額との低い方の金額に加えてて,飼い主の被った精神的損害の賠償である慰謝料の請求を認めています。なお,この慰謝料には,ペットがケガをしたことに対するものに加えて,ペットが死亡した場合には葬儀費用も考慮されます。
これにより,ペットを物と扱いつつ,ペットという特殊性に対応した解決が可能となります。
もっとも,裁判例において,ペットが交通事故被害に遭った場合に飼い主に認められる慰謝料額は,せいぜい数万円〜十万円程度とされることが多く(千葉県弁護士会編「慰謝料算定の実務[第2版]」437頁),必ずしも完全な賠償金が得られる状況には至っていません。
原則としてペットが物として扱われることからの理論的限界かもしれません。
わからない点があったらお近くの弁護士にご相談下さい。