今回は,交通事故により,下肢に障害を負ったことにより,患側と,健側との長さに差が生じてしまった場合の後遺障害について検討したいと思います。
なお,患側が健側に比して短くなった場合を短縮障害といい,逆に患側が健側に比して長くなった場合を過成長といいます。
以下,順に検討します。
【目次(タップ可)】
下肢の短縮障害について
下肢の短縮障害とは
下肢の短縮障害とは,交通事故により障害を負った患側の下肢の上前腸骨棘(腰骨)と下腿内果下端(内くるぶし)との長さを測定し,健側のそれと比較して,短縮したことにより残った障害をいいます。
測定方法
下肢の短縮障害の測定方法としては,下肢の上前腸骨棘と下腿内果下端の両位置に印をつけ,巻尺で測って長さを測定するのが一般的です。
もっとも,以上の方法では,測定方法により誤差が出ることがあります。
そこで,より厳密に測定する場合には,レントゲン画像を用いて行います。
レントゲン画像用いる場合として,通常のレントゲンフィルムを貼り合せて行う場合と,必要な長さに応じて調整して下肢全体を1枚のフィルムに収めることができるロールフィルムを使用する場合とがあります。
下肢の短縮障害の後遺障害等級について
下肢の短縮障害の場合の後遺障害等級は,以下のとおりです。
8級5号 | 1下肢を5cm以上短縮したもの |
10級8号 | 1下肢を3cm以上短縮したもの |
13級8号 | 1下肢を1cm以上短縮したもの |
下肢の過成長について
下肢の過成長とは
交通事故被害者が小児であった場合には,骨折などを契機として逆に成長が促進され,交通事故により障害を負った患側の下肢が,健側と比較して長くなってしまういわゆる過成長が生じることがあります。
前記経過により,小児の交通事故により障害を負った患側の下肢の上前腸骨棘(腰骨)と下腿内果下端(内くるぶし)との長さを測定し,健側のそれと比較して,長くなったことにより残った障害を下肢の過成長といいます。
測定方法
下肢の短縮障害の場合と同様の方法によります。
下肢の過成長の後遺障害等級について
過成長については,早見表に規定がありませんので,別表第二備考6により,以下のとおりの後遺障害等級の認定がなされることとなります。
なお,小児の場合の過成長については,成長期の過程における障害であることから,その認定時期について注意が必要な後遺障害といえます。
8級相当 | 1下肢の5cm以上の過成長 |
10級相当 | 1下肢の3cm以上の過成長 |
13級相当 | 1下肢の1cm以上の過成長 |
補足
下肢の短縮障害・過成長の程度が1cm程度の場合には,労働能力低減への影響がそれほど大きくないと考えられますので,程度が大きくない下肢の短縮障害・過成長により後遺障害等級認定がなされた場合には,等級そのものではなく,労働能力の喪失を伴わないことを理由として後遺症逸失利益率が争われることが多くなります。
この点については,被害者の労働内容が,事務労働なのか肉体労働なのかによっても変わりうるのですが,小児の場合には,そもそも就労前の段階ですので,その判断について困難が伴う問題といえます。