交通事故被害に遭い,不幸にも脊柱に変形障害の後遺障害が残ってしまった場合,後遺障害等級はどのように判断されるのかについて,以下見ていきたいと思います。
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脊柱の構造
脊柱の構造
解剖学上は,脊柱は,頭側の環椎(第1頸椎)から尾側の尾骨までの骨の連なりの柱であり,頭側から,7個の頸椎・12個の胸椎・5個の腰椎の合計24個の椎骨と第5椎骨に尾側についている仙骨と尾骨によって構成されています。
このうち,頸椎は前彎,胸椎は後彎,腰椎は前彎しており,一連の脊柱は緩やかなS字カーブを描いています。
自賠責保険における等級認定に際に検討される脊柱とは
(1)自賠責保険では,頸部及び体幹の支持機能・保持機能・運動機能に着目して等級認定がなされることとされているところ,かかる機能を有していない仙骨及び尾骨は,自賠責保険における脊柱変形としての後遺障害等級認定の対象とはなりません(もっとも,仙骨は,解剖学上骨盤骨の一部でもあるため,仙骨の後遺障害は骨盤骨の後遺障害に含めて扱われます。)。
(2)また,脊柱変形障害であっても,横突起・棘突起の局部的欠損や変形障害の程度では,自賠責保険における後遺障害等級認定の対象とはなりません。
(3)他方で,頸椎と胸腰椎は,主たる機能が異なっていることから,自賠責保険における後遺障害認定においては異なる部位として取扱い,それぞれの部位ごとに等級の認定をすることとされています。
脊柱変形についての後遺障害等級
脊柱変形についての後遺障害等級
脊柱変形についての後遺障害等級は,変形の程度に応じて以下のとおり3つに区分されています。
(1)脊柱に著しい変形を残すもの(別表第二6級5号)
(2)脊柱に中程度の変形を残すもの(別表第二8級相当)
(3)脊柱に変形を残すもの(別表第二11級7号)
脊柱変形についての後遺障害等級別具体例
では,以下,脊柱変形について後遺障害等級別に,いかなる場合にこれに該当するかについて具体的に見ていきます。
(1)脊柱に著しい変形を残すもの(別表第二6級5号)
「脊柱に著しい変形を残すもの」とは,次のいずれかに該当するものをいいます。
① X線写真,CT画像又はMRI画像により,脊椎圧迫骨折が確認でき,かつ脊椎圧迫骨折等により2個以上の椎体の前方椎体高が著しく減少し(減少した全ての椎体の後方椎体高の合計と,減少後の前方椎体高の合計との差が,減少した椎体の後方椎体高の1個あたりの高さ以上である場合。),後彎が生じていることが確認できるもの
なお,後彎の程度については,脊柱圧迫骨折,脱臼等により前方椎体高が減少した場合に,減少した前方椎体高と,その椎体の後方椎体高を比較して判定します。
② X線写真,CT画像又はMRI画像により,脊椎圧迫骨折が確認でき,かつ脊椎圧迫骨折等により1個以上の椎体の前方椎体高が減少し(減少した全ての椎体の後方椎体高の合計と減少後の前方椎体高の合計との差が,減少した椎体の後方椎体高の1個あたりの50%以上である場合。),後彎が生じるととともに,コブ法(脊柱のカーブの頭側及び尾側においてそれぞれ水平面からもっとも傾いている脊椎を求め,頭側で最も傾いている脊椎の椎体上縁の延長線と尾側で最も傾いている脊椎の椎体下縁の延長線が交わる角度を測定する方法。)による側彎度が50度以上となっていることが確認できるもの
(2)脊柱に中程度の変形を残すもの(別表第二88級相当)
「脊柱に中程度の変形を残すもの」とは,次のいずれかに該当するものをいいます。
① X線写真,CT画像又はMRI画像により,脊椎圧迫骨折等により1個以上の椎体の前方椎体高が減少し(減少した全ての椎体の後方椎体高の合計と,減少後の前方椎体高の合計との差が,減少した椎体の後方椎体高の1個あたりの高さの50%以上である場合。),後彎が生じていることが確認できるもの
② X線写真,CT画像又はMRI画像により,コブ法による側彎度が50度以上であることが確認できるもの
③ X線写真,CT画像又はMRI画像により,環軸椎の変形・固定により60度以上の回旋位,50度以上の屈曲位又は60度以上の伸展位,側屈位となっており矯正位の頭蓋底部の両端を結んだ線と軸椎下面との平行線が交わる角度が30度以上の斜位となっている,のいずれかになっていることが確認できるもの
(3)脊柱に変形を残すもの(別表第二11級7号)
「脊柱に変形を残すもの」とは,次のいずれかに該当するものをいいます。
① X線写真,CT画像又はMRI画像により,脊椎圧迫骨折が確認できるもの
なお,脊椎圧迫骨折等が確認できれば足り,変形の程度は問題となりません。
また,環軸椎の変形・固定で脊椎に中程度の変形を残すものの基準に該当しないもののここに含まれます(ただし,歯突起のみの変形の場合は除く。)。
② 脊柱固定術が行われたもの(ただし,移植した骨がいずれかの脊椎に吸収されたものは除く。)
③ 3個以上の脊椎について,椎弓切除術等の椎弓形成術を受けたもの
ここでいう椎弓形成術には,椎弓の一部を切離する脊柱管拡大術も含まれます。
補足
脊柱変形は,それ自体によっては労働能力の低下をもたらしにくい障害であるため,脊柱変形による後遺障害認定の場合には,等級そのものではなく,労働能力の喪失を伴わないことを理由として後遺症逸失利益率が争われることが多い障害類型といえます。