交通事故損害賠償事案において,給与所得者についての休業損害額の算定は,休業損害日額に休業日数(実際には,遊休消化日数も加算します。)を掛けて算定します。
休業損害額=休業損害日額×(休業日数+及び遊休消化日数)
そのため,給与所得者の休業損害額を算定する上で,休業損害日額は,極めて大きな意味を持っています。
そこで,本稿では,給与所得者の休業損害日額の認定方法について検討します。
【目次(タップ可)】
給与所得者の休業損害算定の基礎となる休業損害日額の算定方法
この点,月給制の給与所得者の休業損害日額は,通常,事故前3カ月間の給与額合計(残業代などの付加給を含み,税金社会保険などの控除額は除かないいわゆる額面額です。)をベースとして,これを当該3カ月間の「労働日数」で割ることにより休業損害日額を算出します。
ここで問題となるのは,事故前3カ月間の給与額を割る際の「労働日数」について実稼働日数意をいうのか歴日数をいうのかということです。
以下の写真の例(某保険会社の記入例を引用したモデル収入例です。)に説明すると,労働日数とは,実稼働日数である79日のことを意味するのか,休日を含めた歴日数である90日を意味するのかという問題です。
以上の写真のモデル例をベースに休業損害日額を考えると,直前3カ月の給与額は100万7519円(本給94万9500円及び付加給5万8019円の合計額)です。
この点,労働日数を実稼働日数の79日とすると,休業損害日額は次のとおりとなります。
100万7519円÷79日=1万2753円(1円未満切捨て)
他方,労働日数を休日を含めた暦日数である90日とすると,休業損害日額は,次のとおりとなります。
100万7519円÷90日=1万1194円(1円未満切捨て)
すなわち,事故前3カ月間の給与額を割る際の「労働日数」を実稼働日数と考えるか,休日を含めた暦日数であると考えるかによって,休業損害日額に大きな違いが出てきてしまうのです(本件であれば,日額1559円の差が出ます。)。
交通事故損害賠償実務上の運用
示談段階
この点,保険実務上,示談段階では,事故前3カ月間の給与額を割る際の「労働日数」については,休日を含めた実日数である90日を基準として考えることが多く,保険会社の担当者は,ほぼ間違いなくこの立場で交渉をしてきます。
その理由は,自賠責保険の支払基準において,給与所得者の休業損害額について,事故前3か月の給与額を90日で割った額又は5700円のいずれか高い額と定めていることによります。
示談段階では,任意保険会社は,事実上,自賠責保険の判断に拘束されますので,やむを得ない対応ともいえます。
裁判段階
これに対し,裁判所は,自賠責保険の判断に拘束されませんので,事故前3カ月間の給与額を割る際の「労働日数」の判断についても裁判官の判断に委ねられます。
そのため,過去の裁判例では,事故前3カ月間の給与額を割る際の「労働日数」について,実稼働日数をとるものと,休日を含めた歴日数である90日をとるものとの,いずれも存在しています。
労働日数の選択についての裁判官の判断が割れる場合があるのはもちろんですが,以上を理解しない弁護士が,安易に労働日数として暦日数である90日を選択して請求している場合もあります。
理屈を理解して適切な構成をした主張ができるかによって,得られる賠償額が左右されることに留意し,被害者側として請求をする場合には,以上を踏まえて,事故前3カ月間の給与額を割る際の「労働日数」ついては,実稼働日数での計算をされることをおすすめいたします。