交通事故被害に遭われた方の損害填補の1つとして休業損害・逸失利益というものがあります。
この休業損害や死亡・後遺障害逸失利益を算定する場合の基礎収入額は,基本的には,休業期間又は逸失利益算定期間の基礎となる期間を通じて得られる蓋然性のある額をもって決定されます。
この点について,実務上は,公的書面により証明された事故直前の実収入額(休業損害であれば事故前3カ月の平均値を,逸失利益であれば前年度の所得額)を基礎とするのが一般的です。
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自営業者・事業所得者の基礎収入額認定の問題点(申告外所得について)
この点,交通事故被害者が給与所得者であった場合には,収入額が月による変動が少なく,また源泉徴収票等の書類上もこれが明らかであることが多いため,事故直前の実収入額を算定については,争いとなる場合がそれほど多くありません。
もっとも,自営業者の方は違います。
自営業者の方の基礎収入額は,原則として確定申告書の申告所得額を採用することとなるのですが,申告所得額は,自営業者の方自身の売上げ及び経費の申告によって算定されるものであるため,税金を免れるために,申告上は所得額を低くしているが(具体的には売り上げが申告よりも多い,経費が申告よりも少ないという主張としてなされます。),実際の収入はもっと多いと主張される場合が多くあります。
では,前記主張がなされた場合,この申告外所得を基礎収入額に含めることはできるのでしょうか。
申告外所得を基礎収入の基礎とすることの可否
休業損害算定の場合の基礎収入額
①完全な立証に成功した場合
一般論としては,個別事案において,具体的事情を検討し,本来の収入額(申告外所得)が申告上の現実収入額を超えることが立証された場合には,これを基に基礎収入額を算定する可能性があり得ます(実際には,これに固定経費を加えた額で算定します。)。
もっとも,自営業者・事業所得者による申告外所得があるとの主張は,自ら脱税をしていることを自認しているような自己矛盾の主張であることから,その認定は厳格に行われるべきであり,売上げ及び経費についての信用性の高い証拠によって合理的な疑いを入れない程度の立証が必要であると考えられています。
立証の方法としては,会計帳簿,伝票,日記帳,契約書,請求書,納品書,領収証,預金通帳等によってなされるのが一般的です。
② 一部についてのみ立証できた場合
売上と経費の立証を試みたが,一部が立証できるにとどまった場合には,基本的には,立証に成功した限度において申告外収入を基礎収入額に含めることとなります(実際には,これに固定経費を加えた額が基礎収入額となります。)。
③ 全く立証できなかった場合
申告外所得を全く立証できなかった場合には,申告所得額をもって基礎収入とします。
賃金センサスを用いて基礎収入額を算定することは通常ありません。
逸失利益算定の際の基礎収入額の場合
逸失利益算定の基礎となる基礎収入額についても,基本的な考え方は休業損害算定の場合と同様です。
もっとも,短期間の収入算定の基礎となる休業損害とは異なり,逸失利益は将来に亘って長い期間得られたであろう収入の算定ですので,将来的に賃金センサス所定の平均賃金を得られる蓋然性が認められるのであれば,申告外所得の主張をも考慮しつつ,賃金センサスを用いて基礎収入を算定することもあり得ます。
参考にして下さい。