交通事故被害者が労災保険金を受領した際の損益相殺と費目拘束について

交通事故被害者の方が,交通事故に起因して加害者以外の方から損害の填補として何らかの給付を受けた場合,加害者に対する損害賠償請求額から控除されます。

これを,損益相殺といいます。

本稿では,損益相殺のうち,労災保険金の支給があった場合の損益相殺の有無及び填補される損害費目について検討します。

交通事故被害に遭った場合の労災給付

労働者が,業務又は通勤中に交通事故に遭った場合,労働者災害保険法により,国から労災給付金の支払いをうけることができます。

支払いをうけることができる労災給付金は,治療関係費を填補する療養補償給付,休業損害を填補する休業補償給付・休業特別支給金等様々な種類のものがあります。

労災給付金の損益相殺の有無

損益相殺される労災保険金について

前記各種労災給付のうち,以下のものを受領した場合には,損益相殺されます(損害の填補として加害者に対する損害賠償請求額から控除されます。)。なお,これらの損益相殺は,過失相殺後に行われます。

①療養補償給付(東京地判平成24年7月17日・交民集45巻4号792頁)

②休業補償給付(最判平成元年4月11日・民集43巻4号209頁,判タ697号186頁)

③障害補償給付

④疾病保障年金

⑤遺族補償給付

⑥葬祭給付

⑦介護補償給付

損益相殺されない労災保険金について

他方,休業特別支給金や障害特別支給金等の特別支給金は,労働福祉事業の一環として被災労働者の療養生活の救護等によってその福祉の増進を図るためになされるものであり,損害填補のためのものではないため,同金員を受領しても損益相殺はされません。

①休業特別支給金(最判平成8年2月23日・民集50巻2号249頁,判タ904号57頁)

②障害特別支給金(最判平成8年2月23日・民集50巻2号249頁,判タ904号57頁)

労災給付金を損益相殺する際の費目拘束

前記「第2」第1項で損益相殺がなされるとされた労災給付金について,総損害についての損害額填補とするか(費目拘束なし),特定の損害費目についての損害填補とみるか(費目拘束あり)とするか問題となります。

この点,社会保険給付については,損害額から控除できるのは,保険給付の費目同一の事由の関係にある損害費目にある場合,すなわち相互補完性を有する関係にある場合に限られるとされています(対応原則,最判昭和62年7月10日・民集41巻5号1202頁,判タ658号81頁)。

この控除対象となる労災給付と,填補される交通事故における損害費目との対応関係のまとめは以下のとおりです。参考にしてください。

控除対象の労災給付填補される交通事故損害費目
療養補償給付治療関係費
なお,他の積極損害(入院雑費,通院交通費,付添看護費等)の填補は争いあり。
休業補償給付休業損害及び逸失利益
障害補償給付
疾病補償年金
遺族補償給付
葬祭給付葬儀関係費用
介護補償給付介護費用

補足

労災給付金を含む社会保険給付がなされた場合,それらは不法行為時に損害の元本に充当されたものと評価され,当該給付金相当額に遅延損害金は発生しませんので(最判平成22年9月13日・民集64巻6号1626頁,判タ1337号92頁),注意してください。

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