交通事故に際し,被害者が身に着けていた物が既存・紛失した場合,物損として扱われるのか,それとも人損として扱えるのかが問題となります。
一見,加害者側負担しなければならないことに変わりがないため,どちらでもよさそうにも思えるが,人損として扱うことができれば,「身体」が害された場合における損害賠償を保障する自動車損害賠償保障法(自賠法)の適用を受け自賠責保険金の支払いを受けることができるためにその区別が問題となるのです(物損の場合には自賠法の適用はないため)。
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自賠法の基本的な考え方
この問題は,自賠法を適用して自賠責保険金の支払いをするかの判断材料となるため,その判断をするためには,自賠法の制度趣旨に遡って考える必要があります。
この点,自賠法は,被害者の保護を制度趣旨の1つとして規定されているため(自賠法1条),自賠法に定める身体について,厳密な意味での被害者の肉体に限定させる理由がありません。
身体の意味を緩やかに解した方が自賠責保険金の支払い要件が充足されやすくなり,被害者保護の観点に資するからです。
具体的判断基準
被害者が身に着けていた物が既存・紛失した場合,日常生活を送る上において必要不可欠なものとして身体に密着させているものについては「身体」の一部として扱い,自賠法の適用を認める扱いをするのが一般的です。
具体的には,以下の扱いとされることが多いといえます。
「身体」の一部として人損扱いとするもの
① 義肢
② 義足
③ 松葉杖
④ コルセット
⑤ 義眼
⑥ 眼鏡(保険実務上は5万円以下のものに限定運用されている)
⑦ 補聴器
⑧ 日常使用する着衣(スーツ・シャツ・ネクタイ等)
「身体」の一部とするか争われるもの
① 腕時計
人損扱いとする裁判例(大阪地判昭和48年6月22日・交民集6巻3号1051頁等)と,物損扱いとする裁判例(東京高判昭和48年10月30日・判時722号66頁)の双方が存在しています。
「身体」の一部ではなく物損扱いとされるもの
① 指輪
② ネックレス
③ イヤリング