交通事故被害に遭い,その所有車両が損傷され,かつ全損認定された場合,加害者に対して,車両損害として,全損時価額及び買換諸費用を請求できます。
なぜなら,被害車両の全損時価額の弁償を受けても,新規車両の購入の際に必要となる費用を支出しなければ,新たに自動車を運行させることができないからです。
そこで,以下,交通事故被害車両が,全損認定された場合に,加害者側に請求出来る買換諸費用について説明したいと思います。
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買換諸費用とは
買換諸費用とは,一般的に,交通事故被害車両が全損となったことにより,新たに同種同等の車両を購入することを余儀なくされた場合に,車両購入に伴って支出を余儀なくされる諸費用をいいます。
そして,買換諸費用については,車両の取得価格に付随して通常必要とされる費用の範囲内で損害として認定され,加害者に請求できると考えられています。
この点,加害者側に請求出来る買換諸費用については,裁判例の集積により,概ねその内容に争いがなくなっています。
以下,買換諸費用として認められるもの,争いがあるもの,認められないものの順に説明します。
経済的全損の場合にも,修理代金ではなく,全損時価額の範囲に限定される理由は,物の価値を超える修理代を費やして,その修理代以下の価額しか有しない価値に戻すことには経済的合理性が認められないとされているからです。
買換諸費用として認められるもの
1 登録法定費用
2 登録手続代行費用
3 車庫証明法定費用
4 車庫証明代行費用
5 リサイクル預託金
① 東京地判平成21年2月13日・交民集42巻1号48頁
② 大阪地判平成22年1月18日・自保ジャーナル1824号104頁
なお,買換え車両が中古車の場合には,リサイクル預託金の支払いが必要となり,リサイクル預託金自体が買換諸費用に含まれるのですが,リサイクル預託金が必要となる場合には,あわせて売買契約書に収入印紙の添付も必要となりますので,[リサイクル預託金が買換諸費用に含まれる場合には,契約書添付の収入印紙代も買換諸費用に含まれることとなります。]。
買換諸費用として認められるか争いがあるもの
1 納車費用
2 自動車取得税
なお,自動車取得税の課税標準額は自動車の取得価額とされ(地方税法118条1項),その税率は取得価額の3%とされています(地方税法119条)。
(1)肯定例
① 東京地判平成6年10月7日・交民集27巻5号1388頁
肯定するも,損害額の算定にあたっては,新車購入の場合を基礎とすべきではなく,事故当時の車両と同程度の中古車を購入するとした場合を想定して控えめに算定すべきであるとしている。
② 東京地判平成13年12月16日・交民集34巻6号1687頁
③大阪地判平成13年12月19日・交民集34巻6号1642頁
(2)否定例
① 大阪地判平成24年6月14日・自保ジャーナル1883号150頁)
経済的全損の場合にも,修理代金ではなく,全損時価額の範囲に限定される理由は,物の価値を超える修理代を費やして,その修理代以下の価額しか有しない価値に戻すことには経済的合理性が認められないとされているからです。
買換諸費用として認められないもの
1 希望ナンバー代行費用
① 大阪地判平成24年6月14日・自保ジャーナル1883号150頁
2 自賠責保険金
自賠責保険金については,車両を一時抹消又は永久抹消した後,その旨を自賠責保険会社に報告して自賠責保険契約を解約することにより,支払済自賠責保険金につき,有効期間満了日から解約日までの日割り分の支払済自賠責保険金の還付を受けることができますので,買換費用として認定することはできません。
① 東京地判平成15年8月4日・交民集36巻4号1028頁
3 増加保険料
4 自動車重量税
かつては買換諸費用として肯定されていましたが,平成17年1月から使用済自動車の再資源化等に関する法律(自動車リサイクル法)の施行と同時に,道路運送車両法の新しい抹消登録関係手続と併せてスタートした使用済自動車に係る自動車重量税の廃車還付制度により,自動車リサイクル法に基づき使用済自動車が適正に解体され,解体を事由とする永久抹消登録申請(一時抹消の場合には,自動車重量税の還付制度はありません。)又は解体届出と同時に還付申請が行われた場合に車検残存期間に対応する自動車重量税額が還付されることとなったため,買換費用として認められなくなりました。
5 軽自動車を除く車両の自動車税
軽自動車を除く車両については,自動車を一時抹消又は永久抹消した場合,当該手続きの翌月から支払済の自動車税が自動的に還付されることになっておりますので,自動車税を買換費用として認定することはできません。
最後に
示談交渉段階では,加害者側の保険会社は,買換諸費用を全否認してくることが一般的です。特に,双方に過失が認められる事案については、ほぼ全件について買換諸費用を否認してきます。
この点については,保険会社側の運用上の問題ですが,単に担当者の無知の場合もあります。
この場合には,相手方担当者と議論をするよりも,訴訟提起をした方が解決が早かったりしますので,相手方保険会社担当者に買換諸費用を否認された場合には,一度弁護士に相談されるのをお勧めいたします。