ご存じの通り,日本は地震大国です。
毎年,大きな地震がどこかで発生していると言っても過言ではありません。
日本にはまだまだ木造家屋も多く存在しており,地震による大きなエネルギーが加わると,家屋が倒壊し,その中にいる人がけが・死亡してしまったり,中においてある物が壊れてしまったりすることがあり得ます。
では,地震によって倒壊した建物により,人的・物的被害を被った被害者は,倒壊した建物所有者に対して,被った損害の賠償請求ができるのでしょうか。
以下,地震によって倒壊した建物に起因する損害賠償責任の存否,保険適用の可否について,考えていきたいと思います。
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原則として地震により倒壊した建物により被害を被った人は建物に所有者に対して損害賠償請求ができない
不法行為に基づく損害賠償責任は過失責任である
一般に,契約関係にない他人に損害を加えられた場合,加害者に対して損害賠償請求権が発生します。
その根拠は,不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)です。
この不法行為に基づく損害賠償請求権は,故意・過失責任です。
どういうことかというと,被害者が,加害者に対して損害賠償責任を追求するためには,加害者に故意・過失があることが要件となるということです。
不可抗力の場合には,加害者に対して,責任を追及することができません。
民法第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
そのため,倒壊した建物により被害を被ったという事案でも,加害者である建物所有者に対して責任追及をするためには,加害者(建物所有者)に故意・過失が必要となるのですが,自然災害である地震による建物倒壊については建物所有者に故意・過失はありません。あくまでも不可抗力です。
したがって,地震により建物が倒壊したことにより人的・物的被害を被った場合,被害者は,原則として加害者である建物所有者に対して不法行為に基づく損害賠償責任をを追及することはできません。
保険適用について
建物所有者が賠償責任を負いませんので,建物所有者がかけている賠償責任保険で損害店舗をすることもできません(対物だけではなく対人についても同様です。)。
なぜなら,他人の損害を賠償するための保険は,賠償責任保険といい,加害者が被害者に対して賠償責任を負っていることが前提となっているからです。
他方で,倒壊建物により被害を被った加害者側(建物所有者)は,自分の保険(地震保険等)で倒壊した建物の修理代を填補してもらうことはでき得ます。
例外的に建物所有者に対する損害賠償請求が認められる場合がある
もっとも,地震による建物倒壊により被害を被った人が,加害者である建物所有者に対して損害賠償請求ができる例外的な場合があります。
建物に瑕疵があった場合です。
建物がきちんとした工法で建てられていなかったり(設置の瑕疵),きちんとした管理がなされていなかったり(保存の瑕疵)した場合です。
建物に瑕疵があった場合には,例外的に,建物が倒壊したことにより被害を被った被害者は,当該建物の建物占有者又は所有者に対して,損害賠償責任を追及でき得ます(工作物責任,民法717条1項)。
民法第717条1項 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは,その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし,占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
もっとも,この条文(工作物責任)は,建物占有者又は所有者に対して,建物が倒壊したこと自体の過失を問わないために無過失責任と言われてはいますが,被害者側で,建物倒壊後に,倒壊前の建物に瑕疵があったことを立証する必要はありますので,使い勝手のあまりよくない規定かもしれません。
まとめ
以上をまとめると,地震によって建物が倒壊し被害を被った場合であっても,当該建物が,正しい構法によって建てられかつ適切にその維持管理がなされていた場合には建物所有者に対して損害賠償責任を追及できませんが,当該建物の建て方に問題があったり維持管理に問題があった場合には建物所有者に対して損害賠償責任を追及し得ることとなります。
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