当然の話ですが,士業の皆様も個人事業主です。
そのため,課せられる所得税は,以下の算出方法によります(住民税も同様です。)。
売上‐経費‐所得控除=課税所得
課税所得額×税率‐課税控除額=所得税額
この点,税率や課税控除額を変更させることはできませんので,所得税額を節税するためには,売上げを減らすか,経費または控除額を増やすしかありません。
故意的に売上げを減らすなんていう選択肢はあり得ないと思いますので(脱税はもってのほかです。),士業の節税とは,一般的に,経費額または控除額を増やすことをいいます。
本稿では,このうち,士業を含めた個人事業主による節税の初級編というべき,社会保険等による節税について考えていきたいと思います。
なお,本稿より一歩進んだ節税については,別稿,プライベートカンパニー設立による士業の節税方法をご参照ください。
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個人事業主にとっての社会保険は選択制
我が国においては,社会保険料等の支払いをした場合,支払いをした社会保険料等がそのまま課税所得から控除されることになります(いわゆる社会保険控除です。)。
また,全額経費計上が認められる共済もあります。
これらの諸制度は,その控除額に制限なく,支払った全額が控除対象となる極めて優れた節税スキームです。
この点については,サラリーマンの場合は,社会保険は,勤務先会社によって自動的に加入され,その保険料も給与から自動的に天引きされて支払われます。
そのため,サラリーマンには社会保険の選択の余地がありません。
ところが,個人事業主の場合は,加入できる社会保険等の種類については一定ではなく,その選択が可能です。
そのため,個人事業主の肩は,各社会保険等についてメリット・デメリットを比較検討して,ご自身で各社会保険の加入の有無を選択していくことになります。
一般的に,加入が義務付けられている社会保険として,国民健康保険や国民年金がありますが,これらのほかにも,個人事業主の方の節税ツールとして使えるものが多数ありますので,以下節税の観点からこれらを紹介したいと思います。
士業の節税ツールとして選択できる社会保険等
節税ツールとしての社会保険
① 国民年金基金→所得控除
ア 制度趣旨
個人事業主などの国民年金の第1号被保険者と対象とする,老齢基礎年金に上乗せする年金制度であり,毎月6万8000円を上限とする範囲内で一定額を積み立て,受給年齢に達した後,国民年金に加算して受給を受けられるというものです。
イ 節税となる理由
払い込んだ掛け金全額がその年の個人所得から所得控除がなされます。
ウ 注意点
付加年金(厚生年金)との併用はできません。
また,途中解約ができず,支払いを止めても,積立金は老齢年金としてうけとるか,死亡したときに遺族が一時金として受け取ることしかできませんので,注意が必要です。
節税ツールとしての共済
① 小規模企業共済→所得控除
ア 制度趣旨
個人事業主や中小企業経営者のための公的な退職金積み立て制度であり,毎月1000円から7万円までの範囲内で一定額を積み立てて,自身が事業から引退するときや,事業を辞めるときにそれまで積み立てた共済金を受け取れるというものです。なお,引退または廃業時に受け取る共済金は,税制上公的年金と同じ扱いとされるため,受取時の税額も優遇されています。
イ 節税となる理由
払い込んだ掛け金全額がその年の個人所得から所得控除がなされます。
なお,前納制度があるため,1年以内分の前納額は全額が支払った年の所得控除ができ,年末に月々7万円の掛け金で加入し,1年分前納すれば84万円の所得控除ができます。
そのため,売上げに応じて掛け金額を調整することにより,節税ツールとして使用することができます。
ウ 注意点
事業を継続している限り受け取ることができないものであり,解約する場合には掛け金納付月数が240ヶ月以上にならないと掛け金満額の返金を受けられないことになりますので注意が必要です。
② 中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)→経費の増額
ア 制度趣旨
本来の趣旨は,取引先に不測の事態が生じたときに,積立金(積立上限額は800万円)の10倍までであれば無利子で貸し付けをしてくれるという共済であり,連鎖倒産防止の趣旨で設けられた制度です。
本来は中小企業のために設けられた制度ですが,個人事業主やフリーランスの方はもちろん士業の方も利用できます。
イ 節税となる理由
月額掛金の上限を20万円とし,払い込んだ月数分その年の全額の経費算入ができます。
なお,翌年1年分の前払いも可能なため,初年度は最大24か月分・480万円の経費計上ができます。
士業の方を含めて,個人事業主は,年度によって収入・所得に大きな差があるのが一般的だと思いますので,大きく収入・所得が上がった年にこの共済に加入すれば大きな節税となるのです。
ウ 注意点
この共済を解約すれば,掛け金が解約手当金として返金されますが(納付月数が40か月未満だと一定の減額がされます。),戻ってきた解約手当金はその年の所得として計上されますので注意が必要です。
以上より,所得が上がった年に共済加入をし,所得が下がった年に共済解約をすると,機能的な節税スキームとなるのです。
節税ツールとしての私的年金
① 個人型確定拠出年金(iDeCo)→所得控除
ア 制度趣旨
公的年金に加えて給付を受けられる私的年金の1つであり,毎月5000円から6万8000円の範囲で一定額を積み立てて,60歳以降に受け取ることができるという,国民年金基金のように国民年金の上乗せとなる私的年金です。
なお,年金として受け取る場合には雑所得となり公的年金等控除が適用され,一時金として受け取る場合には退職所得として退職所得控除が適用されます。
イ 節税となる理由
払い込んだ掛け金全額がその年の個人所得から所得控除がなされます。
ウ 注意点
60歳まで掛け金を引き出せないというデメリットがあります。
補足
以上,士業の方にも使える節税ツールが存在しますので,これらを組み合わせ,さらに青色申告者特別控除,生命保険・介護医療保険の加入,ふるさと納税等を組み合わせることより,できる限り課税所得を極小化していくことが可処分所得最大化への第一歩となります。
不安定な士業には,将来設計を考えた資産形成のための節税手段が必要となります。
参考にしてください。