被相続人が死亡した場合,その財産は,誰にどのような割合で相続されるのでしょうか。
この場合,有効な遺言があれば,まずはそれに従い,遺言がなければ,相続人を特定し,相続人が複数いる場合にはその相続人間で遺産分割協議をします。そして,遺産分割協議が整わなければ,法定相続分に従って分配をすることとなります。
本稿では,以下,遺言書がない場合の相続,すなわち相続人の特定と法定相続分について検討していきたいと思います。
【目次(タップ可)】
相続人の範囲・順位
配偶者
まず,大前提として,被相続人に生存配偶者が存在する場合には,常に最先順位の相続人となります(民法890条)。なお,ここでいう生存配偶者とは,民法739条所定の婚姻届出を済ませた配偶者をいい,内縁配偶者は含まれません。
そのため,生存配偶者は,血族相続人がいればその者と同順位で相続人となり,血族相続人がいなければ単独相続人となります。
血族相続人
次に,血族者も,以下の中から優先順位が高い人が配偶者とあわせて相続人となります(なお,先順位の人が存在する場合は,後順位の人は相続人になれません。)。
同じ順位の人が複数いる場合は全員が相続人として,配偶者と共に相続人となります。
① 子(民法887条1項),子に死亡・欠格・廃除があった場合には直系卑属(民法887条2項,3項)
ここでいう子には,後に生きて生まれた胎児も含まれます(民法886条)。
また,養子も子に含まれ(民法809条),相続税法上の扱いとは異なり,民法上は養子は何人いても全員が相続人となります。
② 直系尊属(民法889条1項1号)
親等の異なる直系尊属が存在する場合は近い者に限定されますので,両親と祖父母が共に生存している場合は,両親のみが相続人となります。
③ 兄弟姉妹(民法889条1項2号),兄弟姉妹に死亡・欠格・廃除があった場合には甥姪まで(民法889条2項)
子供の場合と異なり,兄弟姉妹の場合には代襲相続は1回のみとされていますので(民法889条2項は民法887条3項を準用していない。),甥・姪の子は代襲相続人にはなれませんので注意が必要です。
相続人まとめ
以上をまとめると,相続人は以下のとおりとなります。
相続人に配偶者あり | 相続人に配偶者なし | |
第1順位 | 配偶者+子(代襲相続人) | 子(代襲相続人) |
第2順位 | 配偶者+直系尊属 | 直系尊属 |
第3順位 | 配偶者+兄弟姉妹(甥姪) | 兄弟姉妹(甥姪) |
相続人が複数いる場合の相続分について
前記に従って相続人の存否・順位を特定し,相続人が1人しかいない場合には,その者が単独相続をすることとなります(なお,相続人が1人も存在しない場合には,相続財産管理から始まる面倒くさい手続きに移行するのですが,本稿では割愛します。)
他方,相続人が複数いる場合には,相続財産は一旦相続人の共有財産とされ(民法898条),遺産分割協議によって相続人間で分け合うこととなります。
そして,遺産分割協議が整わない場合には,以下の割合による法定相続分によって決することとなります(民法900条)。
生存配偶者がいない場合
子,直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは,各自の相続分は等しいものとされます(民法900条4号本文)。
もっとも,父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は,父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とされます(民法900条4号ただし書)。
なお,かつては,民法900条4号に「嫡出でない子の相続分は,嫡出である子の相続分の2分の1とし」という規定があったのですが,最決平成25年9月4日・民集67巻6号1320頁を受けた民法改正によって撤廃されましたので,現在は嫡出子と非嫡出子との間には区別がなくなりました。
生存配偶者がいる場合
生存配偶者がいる場合であっても,子,直系尊属又は兄弟姉妹間の相続分は前項のとおりで変わりありません。
もっとも,配偶者と子,直系尊属又は兄弟姉妹間との間の相続分については,以下のとおりとなります(民法900条)。
① 子及び配偶者が相続人であるとき
配偶者の相続分2分の1,子の相続分2分の1(子が複数の場合は,子の相続分2分の1を複数人で分け合います)
② 配偶者及び直系尊属が相続人であるとき
配偶者の相続分3分の2,直系尊属の相続分3分の1(直系尊属が複数の場合は,直系尊属の相続分3分の1を複数人で分け合います)
③ 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるとき
配偶者の相続分4分の3,兄弟姉妹の相続分4分の1(兄弟姉妹が複数の場合は,兄弟姉妹の相続分4分の1を複数人で分け合います)
おわりに
以上,法律で規定された法定相続人の範囲・順位,法定相続分について説明してきました。
もっとも,法定相続分については,あくまでも遺言が存在しない場合,相続人間で遺産分割協議がまとまらない場合の解決指針のために設けられた規定にすぎませんので,相続人間に争いがなければ,これと異なる割合を決めても全く問題はありません。
相続人の皆様が,被相続人の生前の意思を汲んで,できる限り相続紛争に発展しない形での解決がなされることを希望して,本稿を終えさせていただきます。
最後まで読んでいただき,ありがとうございました。