私道に接する土地では,私道の使用・通行 をめぐってトラブルなどが生じることが多々見受けられれます。
そこで,以下,私道の使用・通行権者は誰かについて,原則論を踏まえて,説明していきます。
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原則として私道を使用・通行できるのは所有権者のみ
私道とは,当該土地所有者が,土地所有権等の実体法上の権利に基づき,その土地を道路として使用・維持管理しているものをいいます。
私道の設置目的は様々ですが,土地所有者の所有権下にありますので,原則として,その使用(通行)権は所有権者のみにあり,無権利者が勝手に使用(通行)することはできません。
また,私道の設置及び廃止についても,当該土地の所有者が自由に行うことができます。
これらのことは,一見して公道と区別できない程に舗装された私道の場合であっても同様です。
所有者以外の者が私道を使用・通行できる場合
もっとも,所有権者以外の第三者が私道を通行できる場合がいくつかあり,契約による場合と,契約によらない場合があります。
以下,順に見ていきましょう
契約によって私道使用(通行)権を得る場合:地役権・賃借権
まず,第三者が,使用・通行できる場合として,土地所有権者等の正当な権利を有する者から,地役権又は賃借権の設定契約を締結して,私道使用(通行)の権利を取得することが挙げられます。
契約によって使用権・通行権を得れば,第三者が私道を使用(通行)ができるのは当たり前です。
もっとも,私道であっても,所有権者等以外の他人が,契約締結なしにこれを通行できうる場合があります。
契約によらずに私道使用(通行)権を得うる場合その1:私道が位置指定道路の場合
私道が,位置指定道路とされている場合には,一定の利害関係を有する第三者は,私道所有権者との契約関係なしに当該私道を使用・通行し得る場合があります。
どういうことでしょうか。
建築基準法上,原則として,幅4m以上の道路に2m以上接していなければ建物を建てることができないとされています(建築基準法42条1項~4項,43条)。
これを接道義務といいます。
この点,私道は,あくまでも土地所有者が道路として扱っているものに過ぎず,そこに道路としての永続性がありませんので,建築基準法上の道路とは扱われません。
そこで,建物を建築する目的で接道義務を満たすために,接道義務を満たしていない土地について,自分で道路をつくり,私道を建築基準法上の道路として扱う様に行政へ申請手続きし,位置指定してもらうことにより,接道義務を充足することができます。
この手続きにより,行政庁によって建築基準法上の道路として指定された道路を位置指定道路といいます(建築基準法42条1項5号)。
私道について位置指定がなされた場合,建築基準法上の道路として,その廃止が原則的に禁じられます(建築基準法45条1項)。
そこで,私道について位置指定がなされ,位置指定道路となった場合には,私道が一種の公的道路的性格を有してきますので,他人に自由な私道通行権を認めることまでは出来ないものの,一定の利害関係を有する第三者に対して,一種の人格権として一定の通行権が認め得うることとなるのです。
最高裁判決でも,建築基準法42条1項5号の規定による道路位置指定を受け現実に開設されている道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は,右道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され,又は妨害されるおそれがあるときは,敷地所有者が右通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り,敷地所有者に対して右妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有するものというべきとし(最判平成9年12月18日),契約関係ない通行権を認めています。
建築基準法42条1項 この章の規定において「道路」とは、次の各号の一に該当する幅員四メートル(特定行政庁がその地方の気候若しくは風土の特殊性又は土地の状況により必要と認めて都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域内においては、六メートル。次項及び第三項において同じ。)以上のもの(地下におけるものを除く。)をいう。 一 道路法(昭和二十七年法律第百八十号)による道路 二 都市計画法、土地区画整理法(昭和二十九年法律第百十九号)、旧住宅地造成事業に関する法律(昭和三十九年法律第百六十号)、都市再開発法(昭和四十四年法律第三十八号)、新都市基盤整備法(昭和四十七年法律第八十六号)、大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法(昭和五十年法律第六十七号)又は密集市街地整備法(第六章に限る。以下この項において同じ。)による道路 三 この章の規定が適用されるに至つた際現に存在する道 四 道路法、都市計画法、土地区画整理法、都市再開発法、新都市基盤整備法、大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法又は密集市街地整備法による新設又は変更の事業計画のある道路で、二年以内にその事業が執行される予定のものとして特定行政庁が指定したもの 五 土地を建築物の敷地として利用するため、道路法 、都市計画法 、土地区画整理法 、都市再開発法 、新都市基盤整備法 、大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法 又は密集市街地整備法 によらないで築造する政令で定める基準に適合する道で、これを築造しようとする者が特定行政庁からその位置の指定を受けたもの 建築基準法43条 建築物の敷地は、道路(次に掲げるものを除く。第四十四条第一項を除き、以下同じ。)に二メートル以上接しなければならない。ただし、その敷地の周囲に広い空地を有する建築物その他の国土交通省令で定める基準に適合する建築物で、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めて建築審査会の同意を得て許可したものについては、この限りでない。 建築基準法45条1項 私道の変更又は廃止によつて、その道路に接する敷地が第四十三条第一項の規定又は同条第二項の規定に基く条例の規定に抵触することとなる場合においては、特定行政庁は、その私道の変更又は廃止を禁止し、又は制限することができる。
なお,私道が位置指定道路となっているかについては,市役所の建築指導課(市町村別で課名が違うところもあります。)で確認できます。
契約によらずに私道使用(通行)権を得うる場合その2:囲繞地通行権が認められる場合
ある土地が,他の土地に囲まれて公道に通じていない場合,囲まれた土地を袋地,囲んでいる土地を囲繞地といいます。
この点,法律上,袋地の所有者は,行動に至るために,囲繞地を通行できるとされています(民法210条)。これを囲繞地通行権といいます。
袋地所有者は,囲繞地のうち,もっとも相手方に損害の少ないところを選んで通行する義務がありますが(民法211条),囲繞地に私道がある場合は,通常当該私道がもっとも損害の少ないところにあたると考えられます。
そこで,袋地所有者には,私道の使用(通行)が認められ得ます。
なお,袋地所有者は,囲繞地の使用(通行)に際して,償金(使用料)を支払わなければならないとされています(民法212条)。
民法210条 他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。 2 池沼、河川、水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、又は崖があって土地と公道とに著しい高低差があるときも、前項と同様とする。 民法211条 前条の場合には、通行の場所及び方法は、同条の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。 2 前条の規定による通行権を有する者は、必要があるときは、通路を開設することができる。 民法212条 第二百十条の規定による通行権を有する者は、その通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければならない。ただし、通路の開設のために生じた損害に対するものを除き、一年ごとにその償金を支払うことができる。