子供をもうけた男女が,不幸にも分かれて暮らすことになった場合,子供と一緒に暮らすことにならなかった親も,その収入に応じて子供の生活費を負担する義務を負います。法律的に言うと,養育費の負担義務です。
この養育費については,多くの支払い義務者(子供と一緒に暮らせなくなった側の親)は,子供が成人するまでのどこかの段階でその支払いをしなくなります。
体感的には,子供が成人するまで支払い続ける義務者は3分の1もいないんじゃないかと思います。
義務者が養育費の支払いをしなくなった場合,養育費の取り決めが裁判外の合意でなされていたにすぎない場合には,養育費支払い請求権を法律的に確定させるため,権利者(子供・子供と一緒に暮らす親)は,家事調停を申し立てていく必要があります。
他方,養育費の取り決めが調停・審判・人事訴訟での判決や和解でなされた場合には,その実効性確保のために,新たな手続きをとる必要があります。
養育費請求のための調停申立てについては別稿に譲り,本稿では,調停・審判・人事訴訟での判決や和解で養育費の支払いが決められたにもかかわらず,義務者がその支払いをしない場合に,権利者側がとりうる手続きである,「履行確保」と「強制執行(直接強制・間接強制)」について,順に説明したいと思います。
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履行確保(履行の勧告)
履行確保は,権利者が,調停・審判・判決・和解をした家庭裁判所に申し出て,養育費の支払いをしない義務者に対して,支払いを履行するよう勧告してもらう手続きです。
履行確保の手続きは,家庭裁判所において行います。
履行の勧告には費用はかかりませんし,裁判所からの勧告ですので一定の効果は期待できますが,罰則等がありませんので,義務者が応じなかった場合には実効性がないという欠点もある手続きです。
そのため,実効性確保の観点からは,強制執行をとることになるのが一般的です。
強制執行(直接強制・差押え)
強制執行のうちの直接強制は,言うまでもなく,義務者の財産(預金や給与)を差し押さえて,そこから養育費の支払いに充てるための手続きです。
強制執行は,地方裁判所において行います。
特に,義務者が給与所得者である場合には,給与の差押えは極めて有効です。
養育費以外の一般債権による差押えの場合には,通常は支払い期限が到来している範囲に限られるのが原則ですが,養育費による差押えの場合には支払い期限が到来していない将来分の差押えも認められています。
また,差押えの範囲も一般債権の場合には給与の4分の1に相当する範囲に限られるのが原則なのですが,養育費による差押えの場合には2分の1の範囲までの差押えが認められています。
強制執行(間接強制)
強制執行のうち間接強制は,養育費の支払いをしない義務者に対し,一定の期間内に履行をしなければ,養育費の支払いに加えて,間接強制金を課すことを警告した決定をすることで債務者に心理的圧迫を加え,養育費の支払いを促すものです。
間接強制の申立ては,養育費の支払いを定めた調停調書・審判書・判決書が作成された裁判所に行います。
なお,間接強制の決定がなされたにも関わらず義務者が養育費の支払いをしない場合には,養育費や間接強制金の支払いを得るために,前記の直接強制の強制執行をとる必要がありますので注意が必要です。
おわりに
以上が,調停・審判・人事訴訟での判決や和解で養育費の支払いが決められたにもかかわらず,義務者がその支払いをしない場合に,権利者側がとりうる手続きである,「履行確保」と「強制執行(直接強制・間接強制)」についての概略でした。
各種手続きについての申立て書式は,裁判所のホームページからダウンロードできますので,参考にしてください。