交通事故被害に遭い,不幸にも歯牙欠損が生じてしまった場合,後遺障害等級認定はどのようになされるのでしょうか。
【目次(タップ可)】
歯牙の構造
人間の永久歯は合計28歯で,乳歯は合計20歯で構成されています。
なお,永久歯の内訳は,切歯が上下4歯で計8歯,犬歯が上下各2歯で計4歯,小臼歯が上下各4歯で計8歯,大臼歯が上下各4歯で計8歯です。
歯牙の後遺障害
歯牙の後遺障害認定基準
自賠責保険における歯牙の後遺障害は,歯科補綴を加えた本数により認定されます。
「歯科補綴」とは
歯科補綴を加えたものとは,抜歯を含めて現実に喪失した歯牙に対して補綴をしたもの,上記歯冠部の大部分(歯冠部体積の4分の3以上)を欠損した歯牙に対して補綴をしたもの,歯科技工上残存歯冠部の一部を切除したために歯冠部の大部分を欠損したものと同等な状態になったものに対して補綴したものをいいます。
なお,喪失・抜歯・切除を含めた歯冠部の大部分の欠損が確認できる場合には,実際に補綴をしたか未補綴であるかは問わないとされています。
また,亜脱臼の場合には,抜歯したものは歯科補綴に含まれますが,保存処置を行い固定したものは歯科補綴に含まれません。
歯科補綴を加えた歯の「本数」の数え方
(1)まず,乳歯の欠損は,将来そこに永久歯が生えないという医師の証明がない限り,原則として本数に計上されません。
また,永久歯であっても,第三大臼歯(いわゆる親知らず)は,本数に計上されません。
(2)そこで,歯科補綴を加えた本数は,原則として,第三大臼歯(親知らず)以外の永久歯で判断します。
早見表
10級4号 | 14歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
11級4号 | 10歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
12級3号 | 7歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
13級5号 | 5歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
14級2号 | 3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
加重障害について
加重障害とは
歯牙障害における加重障害とは,交通事故被害以前から,既に後遺障害等級に該当する歯科補綴を加えていた(既存障害を有する)人が,交通事故によりさらに歯科補綴を加えた結果,上位等級に至った場合をいいます。
なお,交通事故以前に歯冠部の大部分を欠損・切除していた歯を既存障害として扱うところ,う蝕症(いわゆる虫歯)は,第1度(C1)から第4度(C4)のうち,第4度(C4)のみ既存障害として扱います。
既存障害がある場合の保険金支払限度額
4歯の既存障害がある人が,交通事故によってさらに3歯に歯科補綴を加えた場合を例に検討すると,加重後の等級である12級の保険金額から,既存傷害の等級である14級の保険金額の差額が,保険金支払限度額となります。
既存障害4歯+交通事故3歯=現在の障害7歯 12級の金額-14級の金額=支払限度額
もっとも,2歯の既存傷害がある人が,交通事故によりさらに1歯に歯科補綴を加えたにすぎない場合には,加重障害障害とはならず,単に14級2号が認定されるにとどまります。
第4 補足
歯牙欠損は,それ自体によっては身体機能に制約を及ぼす障害ではないため,醜状障害による後遺障害認定がなされた場合には,等級そのものではなく,労働能力の喪失を伴わないことを理由として後遺症逸失利益率が争われることが多い障害類型といえます。