弁護士が依頼者の代理人として不動産売却仲介を依頼した場合に不動産業者から紹介料を受け取ることが許されるか

弁護士業を行っていると,相続・成年後見・任意売却・破産等の手続きを行う上で,不動産の売却に関与する場合が多く生じます。
売却に関与するといっても,弁護士自身が当該不動産の買主を探してくることは事実上困難ですので,通常懇意にしている又は売却対象不動産の地場の不動産業者に売却の仲介を依頼する場合が多いと思います。

この場合,売却依頼をした不動産業者が,当該不動産の売却業務を完了させた場合,ほぼ間違いなく物件を紹介した弁護士に紹介料の受け取りを申し出てきます(不動産業者にとっては,弁護士紹介案件は,当該弁護士が厳しい値段設定をしてこないことがない上,両手での仲介手数料を得られるおいしい案件なのです。)。

売却物件の紹介を受けて仲介手数料を得たことによって経済的利益を得た不動産業者にとっては,その謝礼として至極当たり前の含み経費です。おそらく領収証なしで現金交付をしてくれます。このことは,不動産業者が大手の会社であっても中小の会社であっても変わりはありません。

一般の方が,不動産業者に,物件を売りたい人を紹介してその謝礼を受け取ることは,法律上禁止されていません。

では,同じように,弁護士が,不動産業者に,物件を売りたい人(多くは依頼者)を代理して不動産の売却依頼をして成約された場合に,当該業者から謝礼を受け取ることは問題ないのでしょうか。

弁護士は,その職務を行うに際して弁護士服務規程に従うこととされているところ,同規程にこれを禁止するかのような規定が存在するために,その解釈が問題となります。

弁護士は依頼者(事件)紹介の対価を支払ったり受け取ったりしてはならない

弁護士業界はではいまだに一見さんお断り的な面があり,多くの弁護士は,顧問先・かつての依頼者等の人的関係かがある者から事件(依頼者)を紹介してもらうことで成り立っています。

他方,弁護士業務を行っていると,様々な理由で自身で事件処理ができない案件が生じます。この場合には,その多くは,別の誰かに事件(依頼者)を紹介することが多くあります。

つまり,弁護士業を行っている以上,事件(依頼者)を紹介し,又は紹介されるということは日常茶飯事なのです。

この点,一般取引社会においては,他人に仕事を紹介した場合,紹介料を支払うことは,半ば当然のように行われます。

もっとも,弁護士はそうではありません。

弁護士は,事件の紹介を受けた場合に紹介者に対して謝礼を支払うことを禁止され(弁護士職務規程13条1項),また他人に事件を紹介した場合に紹介者から謝礼を受け取ることも禁止されています(弁護士職務規程13条2項)。

このようなことを安易に認めてしまうと,弁護士に対する世間からの信頼が損なわれてしまうからです。

弁護士職務規程13条1項
弁護士は,依頼者の紹介を受けたことに対する謝礼その他の対価を支払ってはならない。
弁護士職務規程13条2項
弁護士は,依頼者の紹介をしたことに対する謝礼その他の対価を受け取ってはならない。

ところが,冒頭の問題提起である,弁護士が,物件を売りたい人(多くは依頼者)を代理して,不動産業者に物件売却を依頼して成約をした場合,法律的に見ると,代理であって依頼者の紹介ではないので,これに対して謝礼を受け取っても,弁護士職務規程13条2項に直ちに反するということにはなりません。

では,弁護士がこれを受け取っても問題がないかというとそうともいえません。

冒頭の問題点に対する私見

弁護士が,現在の形で仕事をすることが認められている理由は,1つには弁護士自治が認められているということもありますが,もう1つには弁護士に対する世間の信頼があると思います。

弁護士であれば,おかしなことはしないだろうという信頼です。

この信頼があるからこそ,弁護士が紛争に介入しても,相手方が弁護士の話を聞いてくれ,また紛争解決への糸口となっていくのです。

この弁護士に対する信頼が崩れてしまうと,弁護士としての業務の支障が生じます。そのため,私は,弁護士は,世間の信頼を失う態様で業務を行うべきではないと思います。

この観点で,本問題点を見てみると,確かに,弁護士が,物件を売りたい人(多くは依頼者)を代理して,不動産業者に物件売却を依頼して成約をした場合,弁護士職務規程13条2項に直ちに反するということにはなりませんので,これを禁止されていないとみることもできないではありません。

もっとも,このようなことをしたことによって弁護士に対する信頼が揺らぐという点については,依頼者を紹介した場合と,依頼者を代理して物件売却を依頼した場合とで異なることがありません。

そのため,私としては,弁護士である以上,冒頭の場合に紹介料を受け取るべきではないと思います。というより受け取ってはいけないと思います。

実際,私もこれまでに,不動産業者に対して,相当件数の物件売却を依頼してきましたが,紹介料を受領したことは一度もありません。

今後,これを受領するつもりはありません。

一部には自分から不動産業者に紹介料を請求する弁護士までいると聞いています。

弁護士の自戒が求められますね。