マイホーム購入は一点賭けの不動産投資である(資産形成・資産運用者が家を買うデメリットとは)

弁護士業務をしていると,必然的に,他人の考えを聞くことが多く,また他人の一生に触れる機会が多く発生します。

そんな中で,私が感じるのは,日本人のマネーリテラシーの低さです。

マイホームを買って家族を住まわせて一人前だとか,もしものときのために保険には入っておかなければならないなどと考えておられる方が相当数おられますが,全く理由がありません。

以下,憧れのマイホームの経済的な意味について説明します。

マイホームは買った方が得か借りた方が得かに答えは存在しない

マイホームについてのもっとも無意味な話は,買った方が得か,借りた方が得かという議論です。

経済的な観点から言うと,どちらでも同じです。

こんなことを言うと,マイホーム購入派の方からお叱りをいただくことが予想されますが,実際はそうなのです。

マイホーム購入派の方の持論は,大体以下の3つです。

①家賃を払っても何も残らないが,ローンを完済すれば土地・建物が資産として残る。

②同じレベルの家の場合,毎月の支払い額は,家賃より住宅ローンの方が少ない。

③高齢者になると家を貸してくれなくなるので,家を買っておかなければ,将来住むところがなくなる。

もっとも,この3つは,いずれも,マイホーム購入が賃貸よりも優れている理由にはなりません。順に見ていきます。

①については,不動産を金融資産として考えてみれば誤りであることがわかります。

例えば,3000万円(月額家賃相当額15万円)の不動産を所有していた場合に,その家に居住をすれば確かに,毎月家賃相当額15万円の支払いを免れることはできます。

ところが,その不動産は,人に貸せば毎月15万円が入ってくるはずだったのですから,その分の家賃収入の損失があります。

そのため,土地・建物が残っても,その分の現金取得の機会損失がありますので,議論の前提が間違っています。

また,②については,不動産の価格と家賃相場を比較してみれば誤りであることがわかります。

不動産を借りる場合,貸す側の立場からすると家賃は高い方がいいに決まっており,他方で,借りる側の立場からすると家賃は安い方がいいに決まっています。

この点,家賃設定額が住宅ローン返済額から逸脱して高くなると,不動産を借りて住もうという人が少なくなりますので,そこから大きく外れることはできません(不動産購入をした場合,一般に,名目上,ローン支払額の方が賃料よりも低く設定されますが,それは不動産を所有すると,固定資産税・減価償却等があり,全く同じにすると購入した場合の方が不利益になってしまうからです。)。いわゆる市場の原理です。

すなわち,不動産の賃料は,不動産価格から合理的に決定されるます。なお,このことは,不動産価格が,その不動産の賃料相場から逆算して決せられているの同じ話です。

そのため,同じレベルの家の場合であれば,総合的に見てみると,毎月の支払い額は,家賃でもローンでもほとんど変わりはありません。

さらに,③については,少子高齢化が進む日本では,この理が当てはまらないことがわかると思います。

確かに,現時点では,高齢者の入居を躊躇される大家は多いかもしれません。

もっとも,少子高齢化の影響で,人口減少が進む日本では,将来的には,必ず賃貸物件が大量に余ってきますので,ほとんどの大家は,年齢を理由として賃貸制限をすることをしなくなります。そんなことをしていれば賃貸経営が成り立たなくなるからです。

すなわち,歳を取ると家を貸してくれなくなるので,家を買っておかないと,将来住むところがなくなるということもなくなります。

以上から,経済的に見ると,マイホームを所有しても,一生賃貸で生活しても,ほとんど違いはありません。

そんな中で,あえてマイホームを購入するということは,不動産投資をする選択をしたということでしかないのです。購入した家を,人に貸す代わりに,自分が住んでいるだけです。

マイホーム購入は一点賭けの投資である

このように,マイホーム購入を不動産投資と考え,これを投資目線で見ると,特有の危険性が見えてきます。

一般に,投資を行う際には,リスクヘッジの観点から,分散投資を行うことが推奨されています。

多くは,現金,不動産,株式・債権等に等分して運用するというのがセオリーかと思われます。

ところが,マイホームを購入した場合には,これと全くことなるポートフォリオになってしまいます。

例えば,5000万円のローンを組んで,同額のマイホームを購入したとします。

この方のポートフォリオには,5000万円の不動産と5000万円の負債が組み込まれます。

仮に,この方が500万円の株式投資を行ったとしてもほぼ無意味です。

株価が倍になったとしても,不動産価格が1割下がれば,その利益が吹っ飛んでしまうからです。

すなわち,住宅ローンを組んでマイホームを購入した人は,その資産運用のほぼ全てを自宅不動産の価格変動に委ねてしまうことになるのです。

分散投資とは,真逆のやり方となってしまっています。

しかも,不動産のうち,建物価値は,完成時に最大価値となった後,急速に価値劣化が始まり,20年程度でその価値はゼロになります。

この建物の価値劣化を補う土地価値の上昇の可能性は,極めて低いため,マイホーム購入は,投資目線で見ると,負けレースです。

不動産投資目線で見ると,建物劣化分を,家賃として回収できなければ,購入する価値は見いだせません。

また,住宅ローンを組んでしまうと,更なる不利益があります。

それは,住宅ローン残高が邪魔をして,新たな事業ローンが組めなくなりますので,以降,レバレッジをかけた資産運用が難しくなることです。

こんな状況下で,これから資産形成・資産運用をしようとする方が,マイホームを購入するというのは,相当勇気がいる選択ではないでしょうか。

マイホーム購入を利用して資産運用をする方法

以上,ローンを組んでのマイホームについて,投資目線から見た不利益ばかりを述べて来ましたが,他方で,マイホーム購入を不動産投資に流用して資産形成をしていくという手もあります。

いわゆる,ヤドカリ投資です。実は,私も当初は,このヤドカリ投資を実践しました。

どういうことかというと,まず,住宅ローンを借りて,(若いうちに)分譲賃貸に適した物件を1件購入し,そこに住んで自分の給料で必死に住宅ローンの繰り上げ返済をします。

1件目の物件の住宅ローンを完済したら,同じく,住宅ローンを借りて,分譲賃貸に適した2件目の物件を購入して,そこに移り住みます。

そして,1件目の物件は賃貸に出して賃料を回収し,この回収した1件目の物件の賃料と,あわせて自分の給料で2件目も住宅ローンも繰り上げ返済をします。

また,2件目の物件の住宅ローンを完済したら,同じく住宅ローンを借りて,分譲賃貸に適した3件目の物件を購入して,そこに移り住みます。

そして,2件目の物件も賃貸に出して賃料を回収し,1件目の物件の賃料及び2件目の物件の賃料と,あわせて自分の給料で3件目も住宅ローンも繰り上げ返済をします。

これを延々繰り返し,次々と居住地を変えて,物件を増やしていきます。

最初のうちは苦しいですが,物件が増えるにしたがって,入ってくる賃料が増えていきますので,だんだん加速度的に資産形成が進んでいきます。

次々と,居住地を変えていくさまが,ヤドカリに似ているため,ヤドカリ投資法というそうです。

このヤドカリ投資法の最大のメリットは,事業用不動産を取得しているにもかかわらず,住宅ローンで資金調達をしているため,金利が圧倒的に安いことです。また,住宅ローン減税を使えることも大きなメリットとなります。

他方で,大きなデメリットもあります。

名目上居住用不動産として購入しますので,購入時の諸経費を経費計上できません。また,賃貸に適さない物件を買ってしまった場合には,この手法は使えませんので,一定の目利きも必要です。

さらに,大きなレバレッジをかけて投資していくわけではないため,資産形成の速度が遅いというデメリットもあります。

結びに代えて

以上,投資目線から見たマイホーム購入の意義について述べてきましたが,投資の手法はあくまでも個人の好みによりますので,何を選択されるのかは自己責任によります。

マイホームの購入も,不動産投資の1つであると理解した上で,間違いのない選択をしていただければと思います。

余計なお世話ですみません。

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