自動車を運転していると,一定の確率で,前を走行する車両がタイヤで跳ね上げた小石が後ろに向かって飛んでくることがあり得ます。高速道路の場合は,一般道よりもその確率が上昇します。
では,前を走行する車両が飛ばした小石によって自動車を損傷された場合,前を走行する運転手に修理代金の請求ができるのでしょうか。
以下,飛び石に起因する損害賠償責任の存否,保険適用の可否について,考えていきたいと思います。
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原則:前車運転者は後車への物的・人的損害賠償義務を負わない
不法行為に基づく損害賠償責任は過失責任である
一般に,契約関係にない他人に損害を加えた場合でも,その相手方に対して賠償責任を負います。当然の話です。
では,その根拠を知ってますか?
その根拠は,不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)です。
この不法行為に基づく損害賠償請求権は,過失責任です。
どういうことかというと,被害者が,加害者に対して損害賠償責任を追求するためには,加害者に故意・過失があることが要件となるということです。
不可抗力の場合には,加害者に対して,責任を追及することができません。
民法第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
この点,飛び石被害というのは,その原因としては大きく分けると,次の3つの類型があり得ます。
①前を走行する車両のタイヤが巻き上げた
②対向車線を走行する車両が跳ね飛ばした
③前を走行する車両の荷台から落ちてきた
このうち,①と②については,道路上において車両を運転する者が,道路上にある小石を認識して走行することはあり得ませんので,走行車両が小石を飛ばしたことについて,前を走行する車両の運転者に故意・過失はありません。あくまでも不可抗力です。
また,③についても,走行車両の荷台から落下物があったとしても,後続車両が当該落下物に追いつくことは通常考えられませんので,この場合の請求が認められることはほとんどありません。なお,理由については,別稿:前を走行する車両の荷台からの落下物が後続車両に衝突することはあり得るかをご参照ください。
したがって,自動車を走行させて小石を飛ばした場合,加害者である前を走行する車両の運転者は,原則として不法行為に基づく損害賠償責任を負いませんので,後車の修理代等の支払義務を負いません。
保険適用は保険契約者が賠償義務を負うことが前提となる
車両走行車が後車の賠償責任を負いませんので,前を走行する車両に付保されている対物賠償責任保険で後車の修理代を工面することもできません(対物だけではなく対人についても同様です。)。
なぜなら,他人の損害を賠償するための保険は,賠償責任保険といい,加害者が被害者に対して賠償責任を負っていることが前提となっているからです。
後続車両側からすると,とんでもない話のように感じるかもしれませんが,法律上は,このように解釈されます。
【相手方に支払いをしない保険の例】 ① 対人賠償責任保険 ② 対物賠償責任保険 ③ 個人賠償責任保険
他方で,被害者側は,自分の保険であれば,損壊部分の修理代を填補してもらうことはでき得ます(治療等についても同様です。)。
【自分の損害に対して支払ってもらえる保険の例】 ① 人身傷害補償保険 ② 傷害保険 ③ 生命保険 ④ 車両保険
まとめ
以上をまとめると,自動車走行中に飛び石によって損害を被った場合,原則として前車を運転していた運転者に損害賠償責任を追及することはできませんので,損害填補を受けたい場合には,自身の自動車保険会社に対して車両保険金等の請求をすることとなります。
もっとも,飛び石の場合には,詐欺的保険金請求である場合が散見されるため,保険会社側でも相当慎重に対応することが一般的です。