世の中には,司法試験や国家公務員一種試験等の難関資格試験が存在しています。
難関試験に合格するためには,相当の努力,すなわち相当な勉強時間が必要となります。
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難関試験合格のための勉強時間
難関資格試験といっても,私が経験した試験は,司法試験(ロースクールが始まる前のいわゆる旧試験)だけですので,これを例に説明します。
かつての司法試験では,合格レベルに達するために必要な勉強時間は,だいたい1万時間と言われていました。
1日10時間位勉強している人でも,合格までに最低3年はかかっていたことから,概ね正しい時間設定だったんだろうと思います。
ところが,1万時間勉強した人が皆司法試験合格レベルに達するかというと全くそうではありません。この時間でほぼ合格間違いなしのレベルに達する人もいれば,およそ合格がおぼつかないレベルにとどまる人もいます。
基礎学力や努力の違いによる場合もあるのでしょうが,私は,到達点の違いの多くは,別の理由によると考えています。
では,同じ時間勉強した場合の到達点の違いはどこからあらわれるのでしょうか。
勉強・努力は正しい方向に向かってなされなければ意味がない
どの分野でも当てはまる話ですが,スキルを上達させるためには,正しい方向での努力が必要です。
勉強についても同じです。
世の中(司法試験の世界では予備校等)では,努力をすれば必ず報われる等の精神論が論じられることが多いのですが,正確ではありません。
努力とは,正しい方向で行なってはじめて効果がでるのです。
このことについて,島田紳助氏が,2007年3月にNSCで漫才師を目指す若手向けに行った授業で端的にわかりやすく説明していましたので,これが収録されているDVDを紹介したいと思います。なお,島田紳助氏は,社会的に色々問題となった人ですが,話術もビジネスセンスもずば抜けた人であり,ためになる書籍も複数出版されています。特に,このDVDに収められた講義は,漫才師を目指す人のためになされたものですが,ビジネスの世界で生きている我々にとってもとても参考になる内容が満載です。
本稿に関連する内容は,このDVD内に収められた講義のうち,「才能と努力」と題するテーマです。
このテーマは,島田紳助氏が,努力とは何ぞやということについて,往年の名打者・ミスタータイガース掛布氏が毎日寝る前に500回バットを振っていたというのエピソードを紹介しつつ説明するものです。
簡単に言うと,掛布氏が名打者になれたのは毎日素振りを500回したからではない,プロであれば毎日500回素振りをするのは当たり前であり,そんなものは努力ではない。
意味なく500回素振りをしても腕が太くなるだけの筋トレであり,努力・練習ではない。1回1回の素振りについて,どういうピッチャーがいて,そのピッチャーが何球目にどう投げてきたのかイメージをし,意識して,それに対応するという形で1回振る,それを500回繰り返すということが努力なんだと説明しています。
単にバットを500回振った人間と,1回1回イメージをし考えてバットを500回振った人間では,達成度が違うというものです。
このことは勉強についても全く同じです。
司法試験を例にすると,単に六法全書を暗記したり,判例理論を数多く覚えたりするだけで合格することは通常あり得ません。そんなものは単なる作業に過ぎません。
単なる暗記を積み重ねても,制定法が予定していない新しい事象が次々と発生してくる世の中の動きに対応ができないからです。
司法試験の勉強では,世の中に生じた事象に対応しうると考えられる法律がどの様な経緯で制定され,それがなぜ現在のような文言で規定されているのか。
また,現在の法律上の文言では直接対応出来ない事象が出てきた場合に,前記制定趣旨からどのように解釈をしていくべきか,また解釈の限界点はどこか,他の法律・裁判例との整合はどうかを順に1つ1つ理解していかなければならないのです。
これをひたすら繰り返した結果,合格レベルに達するのに1万時間かかると言われているのです。1万時間ひたすら暗記をしても合格レベルに達することはありません。
おわりに
以上より,司法試験をはじめとする難関試験を目指す人は,やみくもに勉強をはじめて,いたずらにそのまま労力(勉強時間)を費やし続けるのではなく,絶えず節目節目で費やしている労力(勉強時間)のベクトルが正しい方向に向かっているかの検証を行い,場合によっては軌道修正をする必要に迫られます。
同じ時間を勉強しているにかかわらず,到達点に差が出るのは,この検証を怠ってしまうからです。
余計なお世話かも知れませんが,難関資格試験を目指して勉強していて,多大な勉強時間を費やしているにもかかわらず,思うような結果が出ずに苦しんでいる方がおられれば,一度かえりみていただければとおもいます。
偉そうな話ですみません。