被相続人が亡くなった際,相続放棄をしたら必ず全ての義務から解放されると思っていませんか。
法律上は,相続放棄をしても,相続放棄者が相続に伴う全ての責任・義務を免れることができるとは限りません。
いわゆる相続放棄者の管理義務(民法940条)というものがあるからです。
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相続発生後の相続人の法的立場
熟慮期間中の法的位置付け
被相続人が死亡して相続が発生すると,相続人には,3カ月間,その相続について,承認又は放棄をするかどうかの熟慮期間が生じます(民法915条1項)。
この3カ月の熟慮期間中,相続人は暫定的な地位におかれますが,この期間中も相続人は,相続財産の管理義務を負っています。もっとも,その義務の範囲は,自己の財産に対するものと同一の注意義務で行えば足りるとされています(民法918条1項)。
なぜなら,この3カ月の熟慮期間中に,相続人となる者が相続財産の管理の必要がないとしてしまうと,公益上の問題が生じる可能性があるからです(被相続人が所有していた家が崩壊の危機にあるなどの場合を想定してみてください。)。
相続承認・放棄後の法的位置付け
前記熟慮期間を経て,相続人が,被相続人の相続を承認した場合には,被相続人の権利・義務を承継しますので(民法920条),以降,被相続人の権利・義務は,相続人の権利・義務となります。
他方,相続人が相続放棄をした場合,その人は,その相続に関して最初から相続人とならなかったものとみなされ(民法939条),その他の相続人が相続をしてくれた場合には,権利を引き継ぐ相続人が被相続人の権利義務の全てを承継してくれますので(民法920条),相続放棄者は全ての権利義務から解放されます。
相続放棄をしても免れない義務が生じ得る
ところが,相続人の全員が相続放棄をした場合は,相続放棄者は全ての権利義務から解放されるというわけにはいきません。
相続放棄をした者も,その後に相続人となった者が存在し,その者が相続財産の管理を始めることができるまで,相続財産について自己の財産におけるのと同一の注意義務をもって財産の管理をしなければならないという法律があるからです(民法940条)。
その趣旨は,相続開始後に民法918条によって相続財産の管理を行っていた相続人が,相続放棄をしたことによって直ちに他の共同相続人や次順位相続人に管理を引き継げるとは限らないため,公益上の要請から必要とされるからです。
民法940条があるために,相続人が相続放棄をしたとしても,他に相続人がいなければ,相続放棄後も長期間に亘って相続財産の管理義務から解放されないという事態に陥ってしまいます。
場合によっては,朽ち果てていく実家について,他人に迷惑をかけないよう,折を見て修繕していかなければならないなどという可能性もあり得ます。相続放棄の意味を見出せませんよね。
他に相続人がいない場合には,相続放棄をした相続人がこの管理義務を免れるためには,相続財産管理人を選任して管理義務を引き継いでもらう必要があることとなり(民法951条~),手間と費用がかかる大変な手続きとなってしまいます。
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