日本においては,土地と建物とが別の不動産として扱われているため,理論上は,土地と切り離して建物のみを譲渡することが可能です。
もっとも,土地使用権のない建物は土地不法占有物件として無価値物となりますので,借地上の建物を譲渡する場合には建物だけでなく土地賃借権(借地権)もあわせて譲渡する必要があります。
この点,土地賃借権譲渡については土地賃貸人(地主)の承諾が必要とされているところ,その承諾が得られない場合には裁判所の許可により土地賃貸人(地主・地主)の承諾に代えることが出来るという制度が設けられています(借地借家法19条1項)。
以上からすると,法は,土地賃借権(借地権)譲渡について土地賃貸人(地主)の承諾が必要であるとしながら裁判所の許可によりこれが不要とするという構造となっており,土地賃貸人(地主)の反論手段がほとんどない地主に不利益な構造となっています。
本稿では,この借地人による土地賃借権譲渡許可申請がなされた場合に土地賃貸人(地主)が取りうる数少ない反論手段の1つである介入権について簡単に説明したいと思います。
【目次(タップ可)】
借地人による土地賃借権譲渡許可申請
前記のとおり,日本においては土地と建物とが別の不動産として扱われているため,理論上は,土地と切り離して建物のみを譲渡することが可能です。
もっとも,利用権のない土地上に建物が建っている場合,地主から妨害排除請求を受けると当該建物を収去して土地を明け渡さなければならない義務が生じます。
そのため,借地上に建物を所有する者は,建物を譲渡する際には,底地の借地権をセットで(借地権付建物として)譲渡する必要があります。
この点,法律上,借地権の譲渡の効力を発生させるためには土地賃貸人(地主)の承諾が必要とされており(民法612条1項),土地賃借人(建物所有者)と買受人との合意のみでは効力が生じません。
これに反して借地権の無断譲渡があった場合,土地賃貸人(地主)は,土地賃貸契約を解除することすらせずに土地賃借人(建物・借地権譲渡人)に対して土地明渡しを求めることができるとされています(民法612条2項,最判昭和26年5月31日民集5巻6号359頁)。
以上のことから,借地権付建物所有者は,当該「建物を譲渡するため」に「土地賃借権譲渡について」の土地賃貸人(地主)の承諾を得る必要があります。
この場合,実務上は,土地賃借人(建物所有者)が,土地賃貸人に対して借地権譲渡の承諾の申し出を行い,その条件として「承諾料」名下の金銭(借地権価格の5%~15%で設定されることが多く,10%とされるのが最も多いと思われます。)支払いを条件に承諾がなされることになるのが実務上の慣習です。
もっとも,借地権付建物の譲渡につき,土地賃貸人(地主)の承諾が得られないことが散見されます。
こうなると,借地権付建物所有者としては,建物処分が事実上不可能となるという著しい不利益を被ります。
そこで,この建物所有者の不利益を回避するため,裁判所の許可により土地賃貸人(地主)の承諾に代えることが出来るという制度が設けられています(借地借家法19条1項)。
この裁判所の許可は,土地賃借人(建物所有者)から裁判所に対してなされた申立てにより始められる裁判手続き(通常の訴訟事件とは異なる流れになるので非訟事件と言われます。)であり,事件ごとに3人以上で構成される鑑定委員会の意見を聞いた上で審理を行い(借地借家法19条6項,同47条),その結果,裁判所によりその判断が下されるという手順で行われます。
地主による介入権行使(建物賃借権譲受許可申立)
介入権行使
借地人により土地賃借権譲渡許可申請が行われた場合,裁判所が賃料の回収という観点から土地賃貸人(地主)に不利益にならないと判断すれば,鑑定委員会の鑑定を踏まえて承諾料が定められた上で借地権の譲渡の許可を出す運用をしています(あわせて敷金の引継ぎや,賃料改定がなされる場合もあります。)。なお,譲渡許可の有効期間は原則6カ月です(借地借家法59条)。
もっとも,これでは,土地賃貸人(地主)の意向がほぼ反映されずに土地賃借権譲渡が決まってしまいますのであまりに土地賃貸人(地主)に酷な判断となります。
そこで,法は,土地賃貸人(地主)の対抗手段として,借地上の建物の優先買取権を認めました。
この土地賃貸人(地主)の権利は,土地賃借人による第三者への借地権譲渡に「介入」する権利であるため,介入権と呼ばれます。
土地賃貸人による介入権行使は,土地賃貸人が,裁判所が定めた期間内に建物賃借権譲受許可申立てを行うことによって行使されます(借地借家法19条3項)。
介入権行使を認める決定
土地賃貸人が介入権を行使した場合には,裁判所は,相当の対価を定めて土地賃貸人が借地権を買い取る旨を命ずることができるとされています。
そして,介入権行使により土地賃貸人による借地権付建物の買取りが認められる場合には,裁判所により①土地賃借人から土地賃貸人へ借地権及び建物を・・円で譲渡,②土地賃借人は・・の支払いを受けるのと引換えに建物についての所有権登記を行い,かつ建物を明渡す,③土地賃貸人は所有権移転登記及び建物明渡しと引換えに・・円を支払え,との内容の決定がなされます。
他方,土地賃貸人(地主)の防衛手段としての介入権の制度趣旨に沿わない場合には介入権行使が認められない場合もありますので注意が必要です。
介入権行使時の譲渡価格の決定
裁判所により介入権行使が認められる場合,土地賃貸人(地主)が借地権付建物を購入することとなり,その価額が決定書にも記載されることとなるのですが,相当の対価とされる購入価格(介入権価格)の決定方法は以下のとおりです。
前記のとおり,介入権行使は,譲渡承認に代わる許可申出事件(非訟事件)手続の中で行われるため,「特に必要がないと認める場合を除き」,事件ごとに3人以上で構成される鑑定委員会が指定され(借地借家法19条6項,同法47条),指定された鑑定委員会が,現地での鑑定等を経て裁判所に意見書を提出し,裁判所が当該意見書(及び意見書を踏まえた双方当事者の意見)を経て決定されることとなります。
鑑定委員には必ず不動産鑑定士が含まれているため,鑑定委員会の意見は,介入権行使の是非についてのみならず,鑑定価格の設定にも及び,これが介入権価格の決定の際の参考となります。
そして,鑑定意見書に記される鑑定価格は,不動産鑑定評価基準に基づいた「正常価格(取引事例比較法で求めた更地価格に,借地権割合を乗じて求めた価格による場合が多い」を基礎として,①名義書換料控除(借地権価格の10%が一般的),②建付減価(最有効状態にない場合の減価,取壊費用相当額を上限とする),③建物賃借人が存在する場合の借家権価格相当額控除(周辺相場と比較して著しく低い賃料の借家人がいる場合),④その他控除(不法占有者がいる場合の明渡費用等)を行った上で計上されます。
以上にたいし,土地賃借人(地主)側から,土地賃借人が譲渡予定先から差しれられた買入申込書等に記載された「譲渡予定価格」を提示してその価格で決定するように主張することが散見されますが,介入権価格はあくまでも正常価格とされているため,鑑定委員はかかる主張に拘束されることなく意見価格を求めます。
鑑定委員会が積算した鑑定価格に対しては,反論書を提出することもできますが,裁判所は,ほとんどの場合,鑑定委員の意見書記載価格で決定を行います。
不服申立て方法
裁判所により介入権行使を認める決定がなされた場合には,土地賃借人は,決定書の送達を受けた日から2週間以内に,決定した裁判所に対して抗告状を出す方法により不服申立てを行うことが出来ます(即時抗告,非訟事件手続法66条,同法67条)。
以上が,介入権についての概略です。
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