予防法務の観点から見た弁護士活用のすすめ

世の中は紛争があふれかえっています。

大きなものとして国家間の戦争から,小さなものとして個人間の些細な言い争いまで,紛争は多種多様で,あらゆるところに存在しています。

これらの紛争のうち,個人間(自然人に限らず法人も含みます)の紛争・トラブルについて,その解決を仕事とするのが弁護士です。

初動での紛争解決の困難性

弁護士が紛争解決を仕事としていることは一般にも周知されていますので,何かトラブルが起きた場合,弁護士に相談しようと思われる方も多いと思います。

ところが,まだまだ弁護士は敷居が高いと思われており,また弁護士費用が高額となるとも思われていることから,一般の方が弁護士相談に来られるのは,紛争が相当にこじれてからの場合が多いです。

紛争初期の段階で弁護士に相談に来られる方は,それほど多くありません。

このことは,紛争当事者の心理からすると当然かもしれません。

なぜなら,紛争というのは,それが始まった段階では,それがどれほど大きく膨らむのかわからないため,手間と費用をかけてまで初動の段階で対応すべきかどうかを判断することはとても難しいからです。

大きな話で説明すると,戦争が例に挙げられます。

他国の例を挙げると,第1次世界大戦では,オーストリアの皇太子夫妻の暗殺事件がきっかけだったのですが,あれよあれよという間に数十か国が参戦して,戦死者1600万人・戦傷者2000万人という未曾有の大惨事に至ってしまっています。

また,我が国の例を挙げると,太平洋戦争では,一旦はじめてしまっても,戦争を早期解決できるという根拠のない楽観的な予測の下で真珠湾を奇襲するという作戦を立案・実行してしまった結果,亡国の憂き目にあうという結果になっています。

いずれの事例でも,後世を生きる我々から見ると,なぜ当時の人はこのような無謀な泥沼の紛争に突き進んだのか,もっと早い段階で問題解決が出来なかったのかという疑問が生じます。

もっとも,これは,我々がその後の結果を知っているから生じる疑問です。

紛争の真っただ中にいる当事者は,その紛争がその後どうなるのかなどわかりようがありませんので,その当時に,結果に即した対応をすることは極めて難しいのです。

先の例で挙げた太平洋戦争についても,これに先立つ日露戦争では,国力に劣る日本が,ロシアとの戦争について,結果として,早期決戦で勝利し終戦につながったと言う良き先例があったため,それに引っ張られたともいえます。

戦争の例を挙げましたが,この理は個人間の紛争であっても同じです。

紛争は,通常,小さな火種が起こり,それが雪だるま状にどんどん大きくなって爆発するという経過をたどります。どれほど大きな紛争であっても,元をたどれば,小さな行き違いから生じていることがほとんどです。

この点,紛争は,火種が小さいうちなら,意外と簡単かつ安価に解決ができ得るものです。

ところが,実際には,多くの人は,紛争が起きた段階では,その対応の煩わしさや,放っておけば自然に解決するだろうという理由のない希望から,初動の段階での対応を怠りがちです。

顧問弁護士がいていつでも相談できる状況下にあるなどの特殊な事情がなければ,紛争初期の段階で,その解決のために弁護士に相談するなどという選択をすることも通常ありません。

予防法務の重要性

ところが,紛争が大きなものとなってしまえば,それを解決するには大変な労力が必要となります。また,それに要する費用も相当な額となります。

火は,燃え広がってしまうと簡単には消せないものなのです。

個人間の小さなわだかまりであっても,それが裁判になってしまえば,簡単に2年3年かかってきます。また,弁護士費用も相当額に上ります。

労働事件を例に説明すると,不満をもって退職する従業員は,多くの場合,退職後に未払賃金の請求をしてきます。

紛争が大きくなって,労働審判・労働裁判となると,大量の書面を準備した上で,喧々諤々長期間に亘って議論をし,その結果として,しこりを残して解決する。そんな不毛な経過・結果になりがちです。

他方で,不満を持った従業員のガス抜きをした上で,話し合いの上で一定程度の示談案を示したうえで,示談で解決できるのであれば,早期にかつ安価に解決することもでき得ます。

もっと言えば,労働に関する法令の順守を心がけ,就業規則や雇用契約書、賃金制度などを正しく整備して未払い賃金が発生する状況を改善し(会社の立場からすると,賃金を調整したうえで,支払賃金を増価させることなく給与調整ができることが理想的です。),何か疑問が生じたり紛争が起きそうになったりした場合に,直ちに弁護士に相談ができる状況を作り上げておけば,退職に際して従業員と紛争が起きたとしても訴訟手続きにまで発展する可能性を大きく低減させることが出来ます。

繰り返しになりますが,紛争解決費用と手間を少なくするためには,火が大きくなって手に負えなくなる前に発生した火種を1つ1つ消していくことが肝要です。もっといえば,紛争を発生しないようなシステム構築が肝要です。

この火種の鎮火・適切なシステム構築を,法律の世界では「予防法務」と言っています。

どれだけ予防法務を尽くしても法的紛争に巻き込まれることを完全に避けることはできませんが,弁護士を通じて処理を尽くしていれば,相当な確率で,紛争が手に負えなくなる前に鎮静化させることができ得ます。

弁護士費用をケチって結局は大きくなった紛争の解決のために多大な費用と労力をかけるより,紛争初期の段階で芽を摘む,または紛争が発生する前にそもそも紛争発生しないよう予防することが結局安上がりとなる場合が実は多いのです。

弁護士業界の営業のためというわけではありませんが,予防法務という概念を頭の片隅においておいていただければ幸いです。

参考にしていただければ幸いです。

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