スポーツ中の事故により怪我をした・メガネが壊れた等の被害に遭った場合,加害者に損害賠償請求ができるか(裁判例の紹介も)

我が国においては,プロ・アマチュアを問わず,多くの場所で集団スポーツが行われています。

学校においても,情操教育や集団での規律を育むという観点から,体育の授業で集団スポーツが行われることが一般的です。

集団スポーツでは,多くの人が参加するものであるため,必然的に一定の割合で事故が発生し,怪我人が出ます。

では,スポーツ中に事故が起きた場合,怪我をさせた人(加害者)は,怪我をした人(被害者)に対して人的損害賠償責任を負うのでしょうか。なお,本稿は,怪我を基に説明をしますが,メガネを壊した等の物的損害賠償責任についても理屈は同様です。

相手方本人(怪我をさせた加害者)に対する請求

法的構成

スポーツ中の事故の場合,スポーツでは怪我をすることは通常想定されていることから,スポーツに参加している時点で危険の引き受けをしており,仮に怪我をしてもルールの範囲内でなされた行為については,加害者が損害賠償責任を負わないとの考え方があり得ます。

他方で,スポーツに参加することによって危険の引き受けをしているとしても,怪我をすることまで引き受けていないとして,他人に怪我をさせた以上,加害者が責任を負うべきであるとも考えられます。

この点,裁判例においてどのように考えられているか検討してみましょう。

相手方に対して損害賠償請求をする根拠は,不法行為に基づく損害賠償責任です。

不法行為に基づく損害賠償責任が認められるためには,その行為が「故意又は過失によるものであること」,「違法なものであること」であることが要件となり(その他の要件については,本稿では無視します。),過失行為でありかつ違法性阻却がされないことがその要件となります。

すなわち,理論的には,まずスポーツ中の加害行為が過失行為(怪我が予想される行為)であり,かつそれが違法行為(社会的相当性のない行為≒ルール外の行為)でもある場合に,加害者の損害賠償責任が認められるという法的構成になります

そこで,多くの裁判例は,過失が認められるか,認められるとすると違法性があるかを順に検討するのが一般的です。

裁判例

以下,スポーツ中の事故について,加害者本人(相手方)に対する損害賠償請求について,肯定・否定裁判例をいくつか紹介します。

(1)加害者の損害賠償責任を肯定した裁判例

① 最判平成7年3月10日・最高裁判所裁判集民事174号785頁,判例タイムズ876号174頁

 スキー場で上方から滑降する者が下方を滑降する者よりも速い速度で滑降し,両者が接触する事故が発生した場合において,事故現場が急斜面ではなく,下方を見通すことができたなど判示の事実関係の下においては,上方から滑降する者に,前方を注視し,下方を滑降している者の動静に注意して,その者との接触ないし衝突を回避することができるように速度及び進路を選択して滑走すべき注意義務を怠った過失があるとして,損害賠償責任を肯定した。

被告が,スパイクシューズの裏側で原告の左脛部を下方に向けて勢いよく蹴りつけることになった結果,原告が左脛骨・腓骨骨折の傷害を負った事案において,傷害発生の予見性があるとして過失を認め,危険性の高い行為であったこと及び重篤な結果が生じたことから競技規則に定められた反則行為と評価できるために社会的相当性の範囲内の行為といえないとして,違法性が阻却されないとして,損害賠償責任を肯定した。

(2)加害者の損害賠償責任を否定した裁判例

① 東京地判昭和45.2.27・判タ244号139頁

一般に、スポーツの競技中に生じた加害行為については、それがそのスポーツのルールに著しく反することがなく、かつ通常予測され許容された動作に起因するものであるときは、そのスポーツの競技に参加した者全員がその危険を予め受忍し加害行為を承諾しているものと解するのが相当であり、このような場合加害者の行為は違法性を阻却するものというべきである,またスポーツが許容された行動範囲で行われる限り、スポーツの特殊性(自他共に多少の危険が伴うこと等)から離れて過失の有無を論ずるのは適切ではないとして,損害賠償責任を否定した。

② さいたま地判平成30年1月26日

スポーツの参加者は,一般に,そのスポーツに伴う危険について承知しており,その危険の引受けをしていると解されるから,当該スポーツ中の加害行為については,加害者の故意・重過失によって行われたり,危険防止のためのルールに重大な違反をして行われたりしたような特段の事情のある場合を除いて,違法性が阻却されると解するのが相当であるとして損害賠償責任を否定した。

補足

なお,集団スポーツによる事故が,学校の体育の授業で行われたものであった場合には,相手方に対する請求の他,学校に対する請求もでき得ます。

もっとも,本稿で,学校に対する請求まで説明すると長くなりすぎますので,学校に対する請求は,別稿にゆだねたいと思います。



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