【交通事故による後遺障害】腱板断裂(腱板損傷)による肩関節の可動域制限・疼痛について

交通事故被害に遭い,肩に外力が加わった場合,腱板が断裂される場合があります。

腱板断裂は,肩関節に疼痛と機能障害を生じさせる運動器損傷の代表的な疾患の一つです。

もっとも,腱板断裂は,交通事故外傷のみならず,スポーツによる外力や加齢によっても発症することから,事故との相当因果関係が問題となりうる障害でもあります。

以下,交通事故に起因する腱板断裂について見ていきましょう。

腱板とは

腱板は,肩甲骨と上腕骨とをつなぐ筋群の共同腱であり,前方の肩甲下筋,上方の棘上筋,後方から上方へ広く停止する棘下筋,後方の小円筋から構成され,これらが板状に腱性部となり上腕骨大結節や小結節に停止しています。

なお,肩関節は,人体の中で最も大きな可動域を持つために,その自由な動きを保つため安定性は低く,また肩関節と関節周囲組織が複合体を形成する複雑な構造となっています。

そのため,関節を支持する筋肉,腱板,人体などの軟部組織が損傷されると,複合体が破たんして連鎖的に機能障害が生じるため,診断・治療が困難となる場合も少なくありません。

腱板断裂について

腱板断裂とは,腱板の腱性部分が断裂し,腱繊維の連続性が絶たれた状態をいいます。

前記の4つの腱板構成筋のうち,上方の棘上筋腱が最も断裂しやすい場所です。

断裂の原因としては,外傷の他,加齢変性,腱板収縮力による応力集中,肩峰との機械的な衝突など,様々な要因が考えられます。

腱板の断裂は,その程度により,完全断裂(全層断裂)と,不全断裂に分けられ,不全断裂は,さらに滑液包面断裂,腱内断裂,関節面断裂に分けられます。

腱板断裂は,MRIによる診断・超音波検査による診断が有用ですが,いずれも断裂の大きさや部位の多様性のため,完全断裂の場合はともかく,部分断裂の場合には,その診断が困難であるとされています。

実際,部分断裂の場合,ほとんどの検査が不正確であるとまで言われており,交通事故損害賠償実務においては,かかる不正確さの中で画像所見・理学検査所見・愁訴等を総合判断の上,因果関係等の判断がなされることとなるため,判断の難しさが内包されている障害でもあります。

腱板断裂の症状としては,肩関節の運動障害(可動域制限)と,動作時痛,安静時痛,夜間痛(夜間就寝時に注意が方に集中すること,午前2時~5時頃の皮膚温が最も低く疼痛の閾値が低下すること,臥位になることで上腕の下方への牽引が働かなくなり骨頭が上方化することなどがその理由とされます。)を認めることが多いといえます。

腱板が断裂した場合に,これが自然に治ることはありません。

治療法としては,保存療法(運動療法・注射療法)が一般的ですが,症状の軽快が見られないときには手術療法も考えられます。

腱板断裂の場合の後遺障害等級

前記のとおり,腱板断裂による主たる症状は,肩関節の運動障害(可動域制限)と,肩部の疼痛ですので,交通事故によって腱板断裂が生じた場合には,運動障害又は疼痛の格症状の程度によって,後遺障害等級認定がなされます。

運動障害(可動域制限)による後遺障害等級

①1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの:10級10号

患側の肩関節可動域【屈曲(前方拳上)又は外転(側方拳上)】が,健側の可動域の2分の1以下に制限をされたものをいいます。

②1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの:12級6号

患側の肩関節可動域【屈曲(前方拳上)又は外転(側方拳上)】が,健側の可動域の2分の1以上4分の3以下に制限をされたものをいいます。なお,主要運動の可動域が4分の3をわずか(5%)に上回る場合には,参考運動が4分の3以下に制限されていれば同等級の認定が可能です。

疼痛による後遺障害等級

①局部に頑固な神経症状を残すもの:12級13号

②局部に神経症状を残すもの:14級9号

因果関係論における争点

腱板断裂は,交通事故外傷のみならず,外因性要因(肩峰下で繰り返される摩耗による腱板の脆弱化などの腱板周囲からの作用で,特に職業による関節酷使も考えられます。)や内因性要因(腱板の加齢変性や乏血状態により腱の変性が促進され腱板自体が脆弱化されて断裂に至ることがあります。)によっても生じ得ます。

実際に,MRIで調べてみると,無症候性健常者をMRIで調べてみたところ,一定の割合で腱板の完全又は部分断裂者が存在し,その割合は年齢とともに増加したとのことであった(60歳以上では50%を超えていたようです。)。

すなわち,社会生活を送る多くの人が,腱板断裂の状態であるにもかかわらず,その半数には症状が存在していないとされているのです。

そこで,交通事故被害者が,交通事故によって腱板断裂が生じたと主張する場合,一定の割合で,事故外の要因であるとの反論がなされます。

交通事故被害者が腱板断裂様の症状を訴える場合,腱板断裂がそもそも存在しているのか,存在しているとして交通事故によって生じたものといえるかについての判断が必要となり,腱板断裂の有無については,画像所見や理学検査所見等により,交通事故起因については,筋萎縮の有無・程度,脂肪変性の程度,受傷直後からの一貫した愁訴の有無等によって判断されることとなりますが,前記のとおり,難しい判断となります。

なお,事故前から無症候性の腱板断裂があり交通事故によって有症候性に変化したという場合について,頚椎捻挫等による頚部肩甲帯周囲の筋緊張亢進があれば,肩胸郭機能不全・肩甲骨可動域低下により,腱板断裂が無症候性から有症候性に変わることは経過として不自然ではないとして,腱板断裂から生じる症状と交通事故との相当因果関係を認めた裁判例もありますが(千葉地判平成29年6月28日・自保ジャーナル2006号55頁,もっとも25%の訴因減額をしています。),裁判例の多くは,交通事故との相当因果関係を否定するものと思われます。

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