交通事故加害者が負う3つの法的責任と道義的責任について

交通事故を起こした加害者は,被害者に対して,民事上の交通事故損害賠償責任(被害者に対して金銭賠償をする責任)を負うことはもちろんですが,この民事上の責任の他に,事故の内容やその程度によっては,刑事責任や行政責任を負う場合があります。
民事責任・刑事責任・行政責任の3つの法的責任は,それぞれ別個のものであり,追及する主体も異なりますので,いずれかの責任が課されたとしても別の責任を免れるという関係にありません。

交通事故加害者が負う民事責任

民事責任は,交通事故によって被害者が被った人的・物的損害を,加害者が,金銭的に賠償しなければならないという責任です(民法722条1項,民法417条)。

民法722条1項
第四百十七条の規定は、不法行為による損害賠償について準用する。

民法417条
損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。

通常は,加害者・被害者間において示談交渉がなされ,示談交渉で解決できなければ法的手続きによってその解決がなされるのが一般的です。

すなわち,民事責任は,私人間の行為を規制する民法によって根拠づけられるものですので,被害者が,加害者に対して,直接的に責任追及(権利行使)を行います。

他方で,刑事責任は,交通事故犯罪として刑事処罰をするというものであり,また行政責任は,反則金の徴収や運転免許の停止という行政上の処罰をするものであるため,いずれも国家機関が,加害者の責任追及の有無を決定します。

そのため,被害者が,直接的に加害者に対する刑事責任及び行政責任を追及することはできませんので,被害者が,主体的に加害者の責任を追及する方法は,民事責任の追及(損害賠償請求)しかありません。

交通事故加害者が負う刑事責任

人身事故を起こした加害者には,刑事処分が科される可能性があります。

人身事故を起こした加害者が科されうる罪名としては,過失運転致死傷罪(自動車運転処罰法5条),危険運転致死傷罪(自動車運転処罰法2条以下),業務上過失致死傷罪等(刑法211条)等が考えられます。

他方で,物損事故に過ぎない場合には,交通事故加害者に刑事処分が科される可能性はありません。日本においての器物損壊罪は故意犯のみ規定されており(刑法261条),建造物損壊を除いては過失の器物損壊罪を処罰する刑罰法規がないからです。

交通事故加害者が負う行政責任

行政責任は,行政機関が,交通事故を起こした加害者が,今後も自動車を運転することを許してもいいかの観点から,同人の免許保有の可否の判断をすることに起因する責任です。 
交通事故加害者の免許保有が適切ではないと判断すれば免許取り消し,一定の反省等が必要と判断すれば免許停止,減点,反則金を科すなど,その交通法規違反の程度から,加害者の運転免許資格保持の可否を判断してなされます。

行政処分は,特に運送業に従事する人にとっては,生活に直結する死活問題ですが,被害者にとっては責任追及について関与の可能性がない状態で粛々と進んでいく手続きとなります。

なお,点数の累積計算方式などを細かく説明すると長くなりますので,本稿では割愛します。

補足(交通事故加害者が負う道義的責任)

補足ですが,交通事故損害賠償実務を行っていると,よく被害者側から,加害者本人の謝罪を求める等の道義的責任追及を求められますが,法的にはこれを加害者に追及する法的手段はありません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です