不幸にも交通事故被害に遭われて入院することとなった場合,被害者の入院に,家族の方が付き添われることが多いと思います。
このときに,入院についての[治療関係費],[入院雑費]の他に,被害者の家族が入院に付き添ったことにより生じた付添費用は,加害者に請求できるのでしょうか。
結論から言うと,被害者の家族の方の入院付添費用については,無条件に加害者に請求できるわけではありません。
現在の医療機関では,いわゆる完全看護体制がとられていることが多いため,交通事故に遭われた被害者が入院をした場合,医療・看護の観点から必要な行為は原則として医療機関側で行うこととされています。
そのため,医学的な観点からみると,医師の指示がない限りは,交通事故被害者に対する家族等の付添いは,治療上は必要がないとされているため,被害者の家族等が被害者の入院に付き添った場合,これに要する費用を加害者が全面的に負担する理由がないからです。
この点については,入院付添費費の認定そのものを否定する裁判例もあります(仙台地判平成24年7月31日・自保ジャーナル1884号)。
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医師の指示がない場合の入院付添費一般論
もっとも,多くの裁判例では,医師の指示がない場合であっても,①付添いの事実があり,②かつ医療上の観点,介護上の観点,その他社会通念上の観点から,傷害の内容及び程度,治療状況,日常生活への支障の有無,付添看護の内容,被害者の年齢等の事情を総合考慮し,また場合によっては近親者の情誼としての面も考慮して,付添が必要・有益ないし相当であると評価できる場合に,付添の必要性がありとして,入院付添費を認定することが多いといえます。
入院付添いの事実とは
まず,入院付添いの事実があったといえるためには,被害者の家族等が,実際に被害者の入院に付き添っている必要があります。
単なる見舞いに過ぎなかったり,医師の説明を受け手続きをしたりしただけの場合などは,付添と評価できないとして否定されます。
なお,面会謝絶機関や,集中治療室に在籍していた期間については,看護・介護ということが考えられないとして否定するものと,容態の急変に備えるため待機していることを要したなどとして付添と肯定するものと評価が分かれています。
否定例①大阪高判平成21年9月11日・自保ジャーナル1801号
病院が認めている面会時間のみ面会に訪れていたにすぎない場合に否定
否定例②東京地判平成25年4月26日・交民集46巻2号577頁
医師から説明を受けて入院診療計画書等に署名をしたにすぎない場合に否定
入院付添いの必要性
入院付添いの必要性については,多くの裁判例は,介護上の観点,その他社会通念上の観点から,傷害の内容及び程度,治療状況,日常生活への支障の有無,付添看護の内容,被害者の年齢等の事情を総合考慮して決することとしています。
具体的な事案の例については,以下のとおりです。
重篤な脳損傷・脊髄損傷の場合
痰が詰まったときに看護師を呼ぶなどの容態の変化の看視,体位変換による褥瘡防止,マッサージによる関節拘縮防止,食事・清拭・排泄等の日常生活動作の介助,自傷・徘徊などの問題行動の看視等の有益性があることから,付添の必要性を認めることが多いといえます。
また,重篤な障害の場合には,近親者が枕元に付添,回復を願ったり,手助けをしたりすることは無理からぬことでとする肉親の情誼を考慮する裁判例もあります。
上肢・下肢の骨折の場合
患部をギプスで固定したり足を吊ったりするなど手足の負傷やその治療により行動が制約されている場合に,食事・排泄・着替え・歩行などの介助を行っていることを指摘して,付添の必要性を認めるものが多いといえます。
なお,骨折部位や治療段階により,付添の必要性の評価に差が出ます。
幼児・児童の場合
幼児・児童は心身が未成熟であり,親の監護の下で生活をしているため,特段の事情がない限り,入院の際に両親等の近親者が付き添うことは社会通念上必要かつ相当といえます。
なお,自賠責保険では,原則として12歳以下の子供に近親者が付き添った場合,日額4100円が認められています。
軽傷であるが精神的に不安定となっている場合
軽傷であり日常生活動作も制約されていない場合には,交通事故の衝撃や入院という非日常的な出来事に伴う落ち込み・不安・興奮といった程度の精神的不安定では,付添の必要性を認めるのは困難といえます。
危篤状態の場合
(1)肯定例
①名古屋地判平成24年4月26日・交民集45巻6号1370号
医療上・介護上の観点を重視,又は肉親の情誼を重視して認容しています。
(2)否定例
①東京地判平成25年9月6日・交民集46巻5号1174頁
近親者の入院付添費は,被害者が受傷により付添介護を必要とし,近親者の付添介護を受けた場合に認められるものであることから,近親者が危篤と聞いて駆け付けたもののなすすべなく死亡した場合,医療上・介護上は付添の意味がないとして否定しています。
入院付添費認定額
入院付添費が認定される場合には,認定額は,日額に付添い日数を乗じて積算されることとなります。
日額
(1)基準額
ア 赤本(東京)基準:日額6500円。
ただし,症状の程度により,また被害者が幼児・児童である場合には1~3割の範囲で増額を考慮することがあるとする。
イ 緑本(大阪)基準:日額6000円。
ウ 愛知基準:日額6300円。
エ 青本(その他)基準:日額5500円~7000円。
(2)基準額より高額を認めるケース
被害者の状態が極めて重篤な場合,被害者が燃焼の場合など,長時間の付添や負担の重い濃密な介護が必要となった場合に,8000~8500円位で認められることがあるとされています(日額1万~1万5000円の事例につき,大阪地判平成26年5月28日・自保ジャーナル1926号)。
(3)基準額より低額を認めるケース
他方,身体機能の制約が一部であり部分的な介護にとどまる場合や,有職者が勤務の合間に付添をするなど,付添時間が短い場合,肉親の情誼としての意味が強く特段医療上介護上の行為をしていない場合,洗濯物の交換や日用品の差し入れのみで付添介護としての実体が乏しい場合などは,1000円とか2000円位で認めることもありえます。
付添日数
必ずしも入院全期間というわけでなく,付添の必要がある期間のうち,実際に付き添った日数について認められます。
付添日数の立証は,看護記録の記載,公共交通機関の利用記録,病院駐車場の領収証,陳述書等によることになります。