交通事故被害車両の評価損・格落ち損害について

格落ち損(評価損)て,聞いたことありますか。

交通事故によって車両が損傷した場合,修理によって事故車両が事故前の状態に戻るのであれば,修理代を賠償することによって,車両損害が填補されますが,事故車両を修理しても,車両の機能や外観に欠陥が残存したりすることによって,完全な車両損害の填補ができない場合があります。

このような,車両の修理で填補できない車両損害を,評価損又は格落ち損といいます。

以下,この交通事故被害車両に対する,評価損害発生の有無の判断基準,評価損額の算定方法について見ていきましょう。

評価損とは

評価損・格落ち損とは,概念的にいうと,事故当時の車両価額と修理後の車両価額との差額(交換価値の低下)をいいます。

そして,評価損は,①技術上の評価損と,②取引上の評価損とに分類されます。

技術上の評価損

技術上の評価損とは,主として技術上の限界から,修理を行っても事故車両の機能や外観に回復できない欠陥が残る場合の損害をいいます。

事故車両の機能や外観に回復できない欠陥が残った場合に技術上の評価損を認めることについては争いがないと思われます。

もっとも,現在では,自動車の製造技術,修理技術の進歩によって,技術的に修理できない事案は多くなく,技術的問題を理由とする評価を認めるか否か,認めるとしてどの程度認めるかについて,慎重な判断を要するとする見解もあります。

例えば,機能的欠陥としてのレーシングドライバーレベルの人でなければ感じることすらできないわずかな構造上の欠陥や,外観上の欠陥としての肉眼では判断できず膜厚計で計測しなければ明らかとならない程度の外観上の欠陥等について,これを技術上の評価損ととらえるべきか問題となりえます。

取引上の評価

取引上の評価損とは,事故歴があるという理由によって,当該事故車両の交換価値が低下する場合の損害をいいます。

取引上の評価損については,あくまでも主観的な損害に過ぎないため,客観的な技術上の評価損とは異なり,それを評価損として認めるか否かについて,肯定・否定のいずれの裁判例も多数存在しています。

否定説の主たる根拠は,①修理によって技術上の原状回復がなされると,事故車両に欠陥は生じていないのであるから,客観的な価値の低下が存在していないはずであること,②取引上の評価損は,事故車両が売却されて初めて現実化するもので,事故後売却せずに乗り続けた場合には現実化しないのであるから被害者に現実化しない利益を与えることになってしまうというものです。

他方,肯定説の主たる根拠は,①事故車両は中古車市場で事故歴・修復歴のある車両として評価され売却代金が減額されるという現実がある,②技術上の評価損とっ取引上の評価損を明確に区別できない,③修理後も隠れた瑕疵があるかもしてないという疑問が残っている,④主観的・非合理的な部分をも評価することにより適切な損害額を算出することができるというものです。

判例・裁判例上の評価損発生の判断基準

裁判上,評価損は,前記の技術上の評価損及び取引上の評価損を総合考慮し,損傷の内容,程度,修理の内容,修理費用の額,初年度登録からの経過年数,走行距離,車種などの諸事情を考慮の上,類型的に交換価値の減少が生じるかどうかを判断してその存否を決定されています

この点,交通部である大阪地方裁判所第15民事部では,同判断要素中,車種と初年度登録からの期間の2点のウエイトに重きを置いているようです(月刊大阪弁護士会2013年10月号19頁)。

なお,タクシーやトラック等の営業用車両については,中古車として転売等が予定されていないこと,長距離運転が想定されているため買い替え時に交換価値が効果であることが期待されていない(悪く言うと乗りつぶすことが予定されている。)として,評価損が発生し得ないとの主張もあり得ます。

しかし,タクシーやトラック等であっても中古車市場は存在し,また評価損は事故当時の車両価格と修理後の車両価格との差額を意味することから,対象車両の買い替え時に交換価値が効果であるか否かによって評価損発生が左右されるものではありませんので,タクシーやトラック等であっても評価損は発生し得ます(仙台地判令和元年11月26日・自保ジャーナル2065号121頁参照)。

評価損額の算定方法

評価損額の算定方法としては,①原価方式(事故当時の車両価格と修理後の車両価格との差額を損害とする方法),②時価基準方式(事故当時の車両価格の一定割合を損害とする方法),③金額表示方式(事故車両の種類,使用期間,被害の内容・程度,修理費用等の諸般の事情を考慮して損害を金額で示す方法),④修理費基準方式(修理費の一定割合を損害とする方法)等があります。

この点,裁判例では,このうち修理費基準方式(④)をとり,修理費用の3割程度の範囲内で認定している事案が多いように思われます。

なお,評価損額の算定方法として,日本自動車検査協会が発行する減価額証明書を添付し,原価方式(①)の立場に立って評価損額の請求がなされることがたまに見受けられますが,日本自動車検査協会が発行する減価額証明書は,その算出過程が不透明であること等から,少なくとも,大阪地方裁判所第15民事部では,その証拠価値を高く評価しておらず(月刊大阪弁護士会2013年10月号19頁),その主張は,ほとんど採用されていません。

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