人を雇用して育てていくは難しい(弁護士事務所を例に成功している弁護士がイソ弁を雇うのをためらう理由)

弁護士が独立をして弁護士事務所を開設する場合,通常は事務員さんを雇うことになります。事務作業をやってくれる人のがいないとすぐに仕事が処理できなくなるからです。

また,弁護士事務所の経営が軌道に乗ってくると,イソ弁(居候弁護士のことで,「いそ」うろう「弁」護士を略して,イソ弁と言っています。)の雇用を検討することになります。1人の弁護士ではマンパワーに限界があり,徐々に仕事が回って行かなくなるからです。

人を雇うことの難しさ

ただ,事務員やイソ弁の採用は,弁護士の業務効率化の観点だけで考えると,必ずしもメリットがある話ばかりではありません。

特にイソ弁の採用についてみると,その人の単なる能力の有無のみならず,人間性や事務所顧客との相性,はては将来独立を希望している時期まで考えると,自分の希望する逸材に出会う可能性はほぼありません。

そのため,仕事の効率が低下するのみならず,場合によっては今いる顧客(今いる顧客は,過去の事件を大事に処理をしてきて信頼関係を維持してきたために存在しているのです。)の信頼喪失につながってしまう可能性もあります。

しかも,イソ弁として採用される人の多くは,自分より一世代下の世代の人であることが多くなりますので,考え方も大きく違う上,司法修習を終えたばかりの人がほとんどであるために実務経験がなく,まずはこれを叩き込んでいくことから始めることが必要となります。

そんな中での採用となるのですから,うまく育つことが出来そうな人を採用できるかが,大事な要素となってきます。

なお,余談ですが,私の顧問先である某会社の人事担当者が,採用担当者が,その人以上の能力の人を採用するのは困難である。
なぜならば,採用担当者が,就職希望者の能力をどのように勤務先に生かせるかの判断能力を持っておらず,使えない人と判断してしまうからである,と言っていました。
人を見る際に,自分の能力を前提としたフィルターを外して客観的に評価することの難しさです。
この話を聞いてから,私も気を付けようと考えているのですが,なかなか難しい問題ですね。

人を育てることの難しさ

もっとも,この人を育てるというのが,また難しいのです。

初めてイソ弁を雇用しようとする場合,仮に採用担当者が,弁護士業を何年もやっていても,偉そうに大企業で講演をするような経験を経たりしていても,長期間に亘って人様1人を責任を持って指導した経験がないからです。

ましてや,イソ弁を雇おうとする弁護士は,1人で処理できない数の事件数を有している人なので,相当忙く,また思考能力が高く,危機回避能力があり,また人当たりも良い弁護士である場合が多いと思います。

そんな弁護士が,イソ弁を雇ってみると,粗が気になってなかなか仕事を任せられません。

その結果,結局は,人を雇って任せるよりも,自分でやった方がいい(早い)という結論になりかねません。

実際,能力があり,膨大な仕事量を抱えているにもかかわらず,人に任せられないという理由で,ずっと1人でやっている弁護士を何人も知っています。

第二次大戦時の連合艦隊司令官であり真珠湾攻撃を立案者でもある,かの有名な海軍大将山本五十六の言葉にもあるように,人を育てる難しさというのは,遥か昔から現在に至るまでの永遠の課題です。

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イソ弁を雇い育てることの重要性

以上のように,イソ弁を雇用し,育てていくのは,相当の時間と労力を使います。

日常業務が忙しい弁護士にとっては,できれば避けたいことかもしれません。

もっとも,現在のような弁護士の制度を維持していくのであれば,能力も仕事もある弁護士が,積極的にイソ弁を採用していかなければなりません。

なぜなら,法曹資格を取得した後は,資格更新試験すらないため,弁護士は,いったんなってしまうと,その成長度・倫理観は,完全にその人の意思決定に委ねられてしまいますので,弁護士という制度自体が,先輩法曹(弁護士・裁判官・検察官)から,色々指導を受け,叱られて育っていくことを前提に設計されているからです。

この点,多くの弁護士は,弁護士になったらどこかの弁護士事務所にイソ弁として就職し,そのボス弁をはじめとする先輩法曹から,指導され・叱られながら育っていきます。

指導内容としては,新人が知らない手続き等を学んでいくことももちろんですが,やってはいけない倫理観を学び法曹としての矜持を身に着けていく段階でもあります。

能力もあり,仕事もある弁護士は,新人に対して,通常,このテクニック的な手続きの教授のみならず,倫理観の教授も行います。

これが十分なければ能力面・倫理面で十分でない弁護士が多数生み出され,未熟な弁護士に依頼したことによって当該弁護士の信頼を喪失させるとともに,その積み重ねによって,弁護士全体の信頼喪失につながってしまいかねないからです。

先輩法曹に育ててもらい一人前になった弁護士は,どこかの段階で人を雇ってその新人を教育する。

この繰り返しによって現在の弁護士に対する制度・世間からの信頼が成り立っているのです。

以上の重要性に鑑みると,一定の域に達した弁護士には,どんどん新人弁護士を雇用し,そのノウハウ・倫理観を叩き込んでいっていただきたいと考えます。



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