先祖代々の資産家が資産を次世代に引き継ぐことができる理由

日本には,先祖代々続く資産家の方が相当数おられます。

日本の相続税は,世界各国と比べて格段に高税率なっており,普通に考えれば,資産家の方が保有する資産の税率(3億円超から6億円以下は50%,6億円超は55%)で相続税を支払えば,三代下ればその財産は国に召し上げられてしまうはずです。

ところが,実際はそうなっておらず,現在においてなお先祖代々の資産家が存在しています。
では,代々の資産家の方は,税金の業火から,その資産をいかに防衛しているのでしょうか。

本稿では,いわゆる先祖代々の資産家が,なぜ次世代に財産を引き継ぐことができるのかについて,資産家の方から聞かせていただいた話を基に考えてみたいと思います。

資産を引き継いだそのときから次世代への引継ぎを検討・開始している

代々の資産家の方は,先代から資産を譲り受けたそのときから,次世代への資産承継が事実上義務付けられます。自分の代で,代々引き継いできた資産を食いつぶしてはご先祖様に申し訳が立たないからです。

そこで,資産家の方は,資産承継のため,銀行・証券会社・投資顧問・税理士・弁護士などを利用し,そのときどきの経済情勢・税制にもっとも適した形で資産の配分・承継を行っていきます。

まず,資産承継について見ると,現在の法制であれば,プライベートカンパニーを設立する,又は相続税評価の低い不動産等に資産を組み換えることにより相続税評価額を圧縮するとともに,資産(圧縮後の資産,プライベートカンパニーの株式)そのものを年月をかけて譲渡していくことが一般的です。なお,譲渡の順番は,収益性の高いものからの順であることが多いといえます。財産の引継ぎには時間がかかりますので,プライベートカンパニーを設立するにしても,子供が産まれた直後にその子供を100%株主とする会社を設立して資産承継するのが効果的です。

もっとも,資産家の方の場合,その有する引継ぎ資産が多いため,通常,全ての資産を次世代へ承継をし終える前に相続が発生します。

そこで,資産家の方は,当然に,自分が死亡した際に,承継しきれない資産分について,これを相続する次世代の方が支払うべき相続税への対策が必要となります。

資産家は保有資産からの利殖で将来発生する相続税を工面している

相続税は,法定相続分に応ずる取得金額に,パーセンテージを掛けた額で計上されます。

そのため,資産家の方に相続が発生した場合には,その相続財産評価額の多さから,相続税は多額なものとなります。

そこで,まずはそのときどきの税制に適した方法で,相続財産の評価額の引き下げを図ります。

具体的には,現在の法制であれば,プライベートカンパニーを設立する,又は相続税評価の低い不動産等に資産を組み換えることにより相続税評価額を圧縮することが一般的といえます。

その上で,生前承継と評価圧縮で消しきれない相続財産分の相続税の支払い分の工面を図ります。

資産家の方は,通常,保有資産を運用しているのが一般的です。なお,ベストセラーとなったトマ・ピケティの21世紀の資本によると,過去200年間において資本収益率は常に経済成長率を上回っていたそうですので,資産家(投資をしている人)は,投資をしていない人(我々庶民)よりも,高い収益を上げていることとなり,この資産からの収益こそが,資産家を資産家たらしめている根源となります。

この点,仮に運用資産が,10億円あったと仮定すると,5%で運用していれば年間5000万円の収入があります。

代々の資産家であれば,保有資産は10億円程度にはとどまらないでしょうから,年間の収入は億単位であることが想定されます。

他方で,資産家の方も,生活自体は,我々庶民と大きくかけ離れたものでないことが多く,支出については,資産比でみると大きなものではありません。

そのため,代々の資産家の方は,毎年毎年,その保有資産から,相当額の利殖を得ることができるのです。

そして,資産家の方は,自身が死亡した際には相当額の相続税が課されることを十分に承知されていますので,保有資産から得られる利殖については,来るべき相続税の支払いのために留保又は再投資がなされることとなります(保有資産から得られた利殖を再投資することにより,複利効果での利殖を獲得できます。)。

そこで,代々の資産家の方に相続が発生したとしても,直ちに保有資産を失うことなく,相続税の工面ができうることとなるのです。

まとめ

前記のとおり,代々の資産家の方は,何十年ものスパンでもっとも税額の低くなるように資産を組み替えた上で,適切な後継ぎを育て,その人物に資産を譲渡していき,かつその譲渡期間中も,資産から得られる利殖を留保又は再投資をして,将来訪れるであろう税金の業火から代々引き継いできた資産を守っているのです。

代々の資産家の方が行う資産運用は,一般庶民である我々とは,その運用方針についての考え方が全く違います。代々の資産家の方も資産運用をしていますが,そこでは,保有資産を増やすことに重きをおいていないのです。

一般庶民である我々のいう資産運用とは,その人「個人の資産を増やすこと」すなわち資産形成をいいますが,資産家の方のいう資産運用とは,「一族としての資産を維持すること」すなわち資産防衛をいいます。

代々の資産家の方が資産運用を行うのは,自身の生活費の工面と,次世代への資産引き継ぎの準備作業のためなのです。資産からの利得のほとんどを税金用に留保しておかなければなりませんので,保有資産の割には消費できるお金は限られてきますので,資産家の方の生活は質素だったりします。

私には,次世代へ引き継ぐ資産などありませんが,資産維持の考え方については参考にさせていただきたいと考えています。

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