交通事故損害賠償請求事件で当事者間で示談合意に至らず,やむなく訴訟提起に至った場合,訴えを提起する裁判所はどこになるでしょうか。
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交通事故損害賠償請求訴訟の管轄裁判所
結論から言うと,以下の①~③の中から都合のいい場所にある裁判所を1つ選び,そこに訴え提起すればいいのです。
① 原告(訴える側)の住所地を管轄する裁判所(訴額が140万円を超える場合は地方裁判所,140万円以下の場合は簡易裁判所)
② 被告(訴えられる側)の住所地を管轄する裁判所(訴額が140万円を超える場合は地方裁判所,140万円以下の場合は簡易裁判所)
③ 交通事故発生場所を管轄する裁判所(訴額が140万円を超える場合は地方裁判所,140万円以下の場合は簡易裁判所)
なお,住所地ごとの具体的な管轄裁判所は,裁判所ホームページ・管轄区域区分をご確認ください。
結論については前記のとおりですが,以下,管轄裁判所が前記のとおりとなる理由についても一応説明いたします。
もっとも,前記の理由づけについては実務的にはどうでもいい話ですので,必要がなければ読み飛ばしてください。
管轄裁判所決定の法的根拠
事物管轄
法律上,訴額(訴訟物の価額)が140万円以下の場合(不動産に関する訴訟等を除く)は簡易裁判所が第一審の裁判権を,140万円を超える場合は地方裁判所が第一審の裁判権を有するとされています。
裁判所法24条 地方裁判所は,次の事項について裁判権を有する。 一 第三十三条第一項第一号の請求以外の請求に係る訴訟(第三十一条の三第一項第二号の人事訴訟を除く。)及び第三十三条第一項第一号の請求に係る訴訟のうち不動産に関する訴訟の第一審 裁判所法33条 簡易裁判所は,次の事項について第一審の裁判権を有する。 一 訴訟の目的の価額が140万円を超えない請求(行政事件訴訟に係る請求を除く。)
そこで,まずは訴額によって地方裁判所か簡易裁判所かを決定します。
土地管轄
次に,どの場所の裁判所が担当するかを,事件と管轄区域の関連(裁判籍)の有無によって決定します。
法律上,原則として,被告の生活の本拠地に普通裁判籍があるとされていますので,まずは被告住所地を選定することが可能です。
民事訴訟法4条 訴えは,被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。
もっとも,法律上は,これに加えて,事件ごとの特殊性に応じて,特別裁判籍を認めていますので,当該特別裁判籍による選定も可能です(競合管轄)。
交通事故損害賠償請求事案における特別裁判籍は,以下のとおりです。
民事訴訟法5条 次の各号に掲げる訴えは,それぞれ当該各号に定める地を管轄する裁判所に提起することができる。 一 財産権上の訴え 義務履行地 九 不法行為に関する訴え 不法行為があった地
第2項及び第3項記載の理由により,交通事故損害賠償請求事件については,民事訴訟法4条により被告の住所地を管轄する裁判所,同法5条1号により原告住所地を管轄する裁判所(民法484条により金銭債務の弁済は債権者の現在の住所地においてしなければならないとされているため,原告の住所地が義務履行地になります。),同法9号により交通事故発生場所を管轄する裁判所のいずれもが裁判権を有する管轄裁判所となります。
そこで,これらのうちからどれか1つを選択して訴え提起をすることができることになるわけです。
まとめ
以上より,交通事故損害賠償請求訴訟を提起する場合は,原告の住所地・被告住所地・交通事故発生場所のいずれかを選択し,訴額によって地方裁判所か簡易裁判所かをあわせて選択することにより,訴えを提起する裁判所を決定することとなります。
なお,実際には,合意管轄等による例外もありますが,基本的には以上により裁判所を決定することとなります。
参考にしてください。