内縁の法律関係(双方存命中の場合と一方が死亡した場合)

職業柄,長年連れ添っているが,事情があって籍を入れていない関係(内縁関係・事実婚関係)にある方から相談を受けることがあります。

本稿では,内縁とは何か,双方存命中の内縁の法律関係,一方が死亡した後の内縁の法律関係について考えていきたいと思います。

内縁とは

内縁とは,法律上の婚姻関係を有していないものの,事実上の婚姻状態(事実婚状態)にある関係をいいます。

かつての判例理論では,内縁を婚姻の予約と構成していましたが(大判大正4年1月26日・民録21輯49頁),現在は婚姻に準じる準婚関係と構成されています(最判昭和33年4月11日・民集12巻5号789頁・判時147号4頁)。

婚姻に準じるとされることから,内縁関係といえるかどうかについては,社会的にも事実的にも婚姻としての実質を備えている必要があり,内縁の成立要件としては,①婚姻意思があること,及び②これに基づいた共同生活があることが必要とされ,同居の有無及びその期間(3年が一応の目安とされます。)・使用している名字の同一性・家計を同一性・挙式の有無・子の存在などの事情をもって総合的に判断するのが一般的です。

いうなれば,内縁とは,籍こそ入れていないものの,当事者が夫婦のつもりで生活をし,周囲の人も夫婦として扱っているような状態をいいます。

内縁関係があるとされた場合,男性側は内縁の夫,女性側は内縁の妻と呼ばれ,一方からみた他方を内縁配偶者といいます。

双方存命中の内縁の法律関係

内縁関係にある夫婦の場合,籍を入れていないため法律上は夫婦といえないものの,夫婦としての実態が存在していることから事実上は夫婦といえます。

そこで,法律実務上も,内縁関係にある者については,他人に影響を与えない範囲においては出来る限り法律上の夫婦と同様に扱い,他方で他人に影響を与える範囲においては法律上の夫婦と区別して取り扱っています。

主な具体例は,以下のとおりです。

法律上の夫婦と同様に扱う内縁の主な法律関係

内縁関係にある場合,その当事者間にのみ問題となる権利関係については,法律上の夫婦と同様に扱うべきとされ,内縁の夫婦相互間では,以下の権利義務が発生すると考えられています。

①同居協力扶助義務

同居義務は,夫婦間の本質義務であり,内縁関係にも民法752条が類推適用されます。

もっとも,同居義務の履行強制手段はなく,同居請求については,内縁関係が維持存続していることを前提として,家庭裁判所の調停又は審判によることになります。

この点については,協力義務についても同様です。

②婚姻費用負担義務

民法760条(婚姻費用の分担)の規定は,内縁に準用されます(最判昭和33年4月11日・民集12巻5号789頁)。

③貞操義務

貞操義務が婚姻の本質から生じる義務であるため,内縁関係にも貞操義務は認められます(大判大正8年5月12日・民録25輯760頁)。

④内縁不当破棄による慰謝料請求権

内縁を不当に破棄された者は,相手方に対し不法行為を理由として損害の賠償を求めることができます(最判昭和33年4月11日・民集12巻5号789頁・判時147号4頁)。

⑤内縁解消による財産分与請求権

内縁の解消までの間に,事実上の夫婦共同財産が形成されていれば,離婚に準じて財産分与が準用されると解されています(広島高決昭和38年6月19日・判時340号38頁,大阪高決昭和40年7月6日・判タ193号196頁,名古屋家審平成10年6月26日・判タ1009号241頁等)。

⑥日常家事債務の連帯責任

日常家事の連帯責任の規定(民法761条)は,婚姻の実質的な共同生活に関する財産的効果を定めたものであり,内縁に準用されることに争いはありません。

⑦社会保険制度(健康保険・年金)上の被扶養者となれる

もっとも,税法上は内縁配偶者は,配偶者とみなされないため,配偶者控除・配偶者特別控除による所得控除はなされません。

⑧生活保護上は同一世帯とされる

生活保護法10条は,保護は,世帯を単位としてその要否及び程度を定めるとしているところ,この世帯とは住民台帳に記載される世帯と同様に,要保護者が同一の住居で生活をし生計を共にしているかを主たる基準として認定されます(昭和36年4月1日・発社123)。

したがって,内縁の夫婦であっても,居住の同一性があり,生計が同じであるなどの事実があれば,法律上の夫婦と同様に1つの世帯として保護の適用を受けることができます。

法律上の夫婦と区別して扱う内縁の主な法律関係

他方,内縁関係にあっても,他人に影響を与える権利関係については,法律上の夫婦とは別の取り扱いがなされるべきとされ,以下の点では法律婚と区別されます。

①内縁関係の間に生まれた子は非嫡出子となる

法律上,婚姻関係にない男女から生まれた子は,その理由を問わず,非嫡出子とされます。

非嫡出子の法律上の親子関係は,母子関係は分娩という客観的事実によって確定しますが(最判昭和37年4月27日・民集16巻7号1247頁・判タ140号67頁),父子関係については認知がなければ当然には成立しません。

そのため,内縁の夫婦の間に生まれた子は,一旦,母の戸籍に入って母の氏を称し(民法790条2項),母の単独親権に服し,認知があって初めて内縁の夫との間に父子関係が発生することになります。

一方が死亡した場合の内縁の法律関係

一方当事者が死亡した場合であっても,双方存命中の場合と考え方は同じで,法律実務上も,内縁関係にある者については,他人に影響を与えない範囲においては法律上の夫婦と同様に扱い,他方で他人に影響を与える範囲においては法律上の夫婦と区別して取り扱っています。

法律上の夫婦と同様に扱う内縁の主な法律関係

① 遺族年金

厚生年金保険法59条1項は,遺族厚生年金の受給権者として被保険者であった者の配偶者と規定し,また同法3条2項は,同法にいう配偶者には事実上婚姻関係にあった者を含むと規定しています。

同様の規定が,国家公務員共済組合法,労働者災害補償保険法等,多くの社会保障関連法規に規定されています。

そこで,内縁配偶者であっても,法律上の配偶者が存在せず,かつ内縁配偶者であることを役所に認定してもらえば,内縁配偶者が遺族年金を受領することができえます。

法律上の夫婦と区別して扱う内縁の主な法律関係

①内縁配偶者は相続人にはなれない

民法890条によって,被相続人の配偶者は相続人となりますが,同条にいう配偶者には内縁配偶者は含まれないと解されていますので,内縁の夫婦の一方が死亡した場合,他方の内縁配偶者には,相続権がありません。

また,内縁の夫婦の一方の死亡により内縁関係が解消した場合に,民法768条(財産分与)の規定を類推適用することも否定されています( 最判平成12年3月10日・民集54巻3号1040頁)。

そのため,生存内縁配偶者は,原則として,死亡内縁配偶者の遺産を取得することはできません。

このことは,内縁配偶者が,どれだけ他方の内縁配偶者の世話をしたり,財産形成に寄与したりしていたとしても変わりません。

なお,内縁配偶者の相続権を絶対的に否定した場合,他方配偶者の死亡とともに直ちに居住地を失わせることにつながりえますので,例外的に,居住権に限って内縁配偶者の権利保護が認められています。

居住権が相続人の借家権の場合は,相続人がいない場合には借地借家法36条1項により,相続人がいる場合には相続人からの明渡請求に対して相続人の借家権を援用して(最判昭和42年2月21日・判時477号9頁),内縁配偶者の居住権保護がなされます。

また,居住権が相続人の所有物件の場合には,相続人の内縁配偶者に対する明け渡し請求を権利濫用とすることにより(最判昭和39年10月13日・判時393号29頁),内縁配偶者の居住権保護がなされます。

さらに,内縁配偶者は,死亡した内縁配偶者に相続人がいない場合に限って,特別縁故者として,家庭裁判所に対して,死亡した内縁配偶者の財産分与を申し立てることができます(民法958条の3)。

なお,特別縁故者への財産分与は,要件が決められていること,分配対象財産の決定について家庭裁判所に裁量権があること,分配まで時間がかかる等の問題点もあります。

まとめ

以上,内縁の法律関係について述べてきましたが,これらを踏まえてまとめると,双方存命中は,内縁関係にある夫婦は,当人同士に問題がなければ法律婚の状態とそれほど変わらない生活を続けることができえます。

ところが,内縁配偶者が死亡内縁配偶者の相続人とならないことから,一方当事者が死亡した場合に内縁配偶者が直ちに生活に困るという事態が生じる可能性があり,そうならないようにする対策を講じておく必要があります。

具体的には,生前贈与等で一定の財産を譲渡しておく,遺言でその財産を内縁配偶者に相続させる旨を取り決めておく等の方法があります。

私も,内縁関係にある方の多くの方々が,かかる対策を怠ったために,後々大きなトラブルとなった,直ちに生活に困ることになったという事例を数々見てきました。

これらの不都合性を避けるためにも,内縁についての疑問・不安があれば,一度お近くの弁護士に相談されることをお勧めいたします。

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