弁護士業務を行っていると,色々な方から,「・・・についてちょっと教えて」という電話が頻繁にかかってきます。イメージでいうと,1日1件以上はあると思います。
ひどいものだと,これから締結しようと思う契約書の案を送るからさっと見て問題ないか確認してほしいなどというものまであります。
後々もめたり,陰口をたたかれるのも嫌ですので,簡単なものであれば,回答することもありますが,大きな問題です。
ほとんどの方は悪気はないのですが,悪気がないからこそ問題なのです。
我々が,弁護士として,プロとして,何で食べているのかを全く理解をしていないお願いだからです。
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弁護士が獲得した法律知識の価値
一般的に,弁護士は,法律実務家として,努力をして獲得した法律知識を,実社会に適用して,依頼者の利益を図るために仕事をし,その対価として,依頼者から報酬をいただいています。
そのため,弁護士が報酬を得るためには,獲得した法律知識を実社会に適用するためには,法律知識を獲得する努力,実社会にうまく適用させるための実務経験が必要なのです。
通常,弁護士がこの段に至って報酬をいただくようになるまでには,司法試験に合格するための受験勉強を経て,司法試験に合格し,司法修習・実務経験行うという様々な過程を経ています。
当然,その各段階で,相当時間をかけ,また相当の忍耐をしています。
この時間と忍耐の対価として,法律知識を獲得し,またこれを実社会に適用させるというスキルが生まれた結果,報酬をいただいて生きています。
すなわち,弁護士の法律知識は,タダで得られたものではないのです。
それどころか,獲得するまでに,相当の時間と忍耐を要していますので,相当高価な知識・経験です。そのため,弁護士の人件費は高いのです。
言うまでもありませんが,現代世界では,物・サービス等についての全ての価格決定の根拠は人件費です。
サービスの価格決定の根拠が人件費というのはわかりやすいと思いますが,物の価格決定の根拠が人件費というのはピンと来ないかもしれません。
物の価格決定の根拠について,ダイヤモンドを例に説明すると,ダイヤモンドが高価である理由は,ダイヤモンドが価値ある石だからではなく,原石を採掘し,加工し,ジュエリーにするまでに膨大な人の手が加わっているから高いのです。石が高いのではなく,その石が宝石になるまでの人件費が高いのです。
このことは,弁護士の法律知識も同様です。
弁護士は,法的知識として獲得し,これを専門家として実社会で問題なく適用することができるレベルまで磨き上げ,過不足なく伝達できるレベルの情報に仕上げているのですが,その段階に至るまでに弁護士に多大な人件費(当該弁護士の人件費)費やしているから,弁護士の法律知識は高いのです。
ここまで書くと,電話1本で,タダで弁護士に聞こうとすることの問題点が見えてくると思います。
弁護士以外の方の獲得スキルの価値
このことは,何も弁護士だけの話ではありません。
シェフ,デザイナー,大工,スポーツ選手。例を挙げればきりがありませんが,どの職業の方であっても理屈は同じです。
当然サラリーマンの方も同様です。
それぞれの方は,そのスキルで報酬を得て生活ができるようになるまで,相当期間の下積みがあるはずです。
タダで仕事をしてほしいとか,職務上の技術を簡単に教えてほしいとか言われたら,ほとんどの方は断るのではないでしょうか。
デザイナーの方を例に出すと,友人の結婚式があるので,簡単でいいのでタダで見栄えのするウェルカムボードを作ってと言われたら,ほとんどの方は断るのではないかと思います。というか,そんなずうずうしいお願いをする人はほとんどいないと思います。
それぞれの職業には,その職業に就いて満足な仕事をするための準備の時間があり,また実際に仕事をする際にはその仕事を完成させるための実働時間があります。
誰もが,この準備時間と実働時間の総計を,人のために費やすことによって,人件費として報酬を得ているのです。
これが市場原理です。
他人にタダで仕事をさせるというのは,この市場原理をゆがめ,適切な人件費の支払いがなされないということを意味します。
当然,その業界としての死活問題ともなりかねません。
少し前に,漫画の海賊版サイトが問題となりましたが,理屈は同じです。
プロの仕事に正当な対価を支払わないということは,その人のプロとしての価値を否定することとなり,またその業界の価値をも否定することにつながります。
プロとしてのきちんとした仕事には,きちんとした報酬が支払わなければなりません。
補足
以上偉そうに述べてきましたが,逆の場面もあります。
例えば,私がお世話になっている方に紹介された方が相談に来られた場合には,逆に私の方から,「・・さんにお世話になっていますので,今回は相談料は結構です。」という場合です。
反省すべき点かもしれません。
もっとも,信頼できる方からの紹介された方の場合は,相談料は結構ですと申しあげても,そういうわけにはいきませんと言われて,自ら相談料を置いて行かれる方も多くおられます。
弁護士にとって,相談料をいただくか否かは,特に経営に響くようなものではありませんので,特段気にするものではないのですが,信頼関係の構築の上では,大事な問題ではあると思います。