後遺障害逸失利益計算の判例・裁判例の基本的考え方(損害賠償額の蓋然性立証ができない場合は基礎収入等を控えめに計上すべき)

後遺障害逸失利益とは,簡単に言うと交通事故被害者が,交通事故により後遺障害を負ったために,労働能力が低下し,将来得られる収入が減少することによる損害であり,被害者が被った後遺障害逸失利益については,当然加害者側においてこれを填補する必要があります。

以下,後遺障害逸失利益の算出方法についての基本的な考え方を見ていきましょう(個別論点については,別稿で説明します。)。

後遺障害逸失利益の算出方法

交通事故損害賠償請求事件において,後遺障害逸失利益は,一般的に,以下の公式により算出されます。

基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数(中間利息控除)

そのため,後遺障害逸失利益についての基本的論点は,①基礎収入額によるもの,②労働能力喪失率によるもの,③労働能力喪失期間によるものに限定されます。

一見するとシンプルな話ですので,後遺障害逸失利益は,簡単に算出できるように思えます。

ところが,後遺障害逸失利益は,将来発生するであろう労働能力喪失期間中に生じる逸失利益(将来の損害)を,発生前の時点で算定するものであるため,判断時点ではその判断材料の1つ1つが全て不確定のものなのです。

そのため,後遺障害逸失利益を数学として正確に算出することは不可能であり,その算定額は全てフィクションです。

抽象的な損害であるためその正確な金額算定が困難であるにもかかわらず,賠償額が大きなものとなるため,後遺障害逸失利益は,訴訟で強く争われることが多い,難しい論点となってしまうのです。

後遺障害逸失利益には難しい論点が多数存在していますので,個別の論点は,それらは別稿にて説明するとして,本稿では,まずは,後遺障害逸失利益の基本的視点を見ていきましょう。

後遺障害逸失利益算定についての基本的考え方

前記のとおり,後遺障害逸失利益は,その算定時点では未だ発生していない将来損害ですので,数字の選択次第では,被害者に有利にも,加害者に有利にもなりえます。

被害者側に有利に1つ1つの論点ごとに大きな数字を選択していくと,結果として積算額は大きくなりますし,他方で加害者側に有利に1つ1つの論点ごとに小さな数字を選択していくと,結果として積算額が小さくなります。

すなわち,論点ごとにどのような数字を選択するか,そこに後遺障害逸失利益の算定の困難さについての問題があるのです。

この点については,未だ発生していない被害者の後遺障害逸失利益を,加害者に負担させるためには,相応の損害発生の蓋然性(将来発生する可能性が極めて高いこと。)が必要とすべきです。そうでなければ,未だ発生していない損害を,加害者に帰責させる理由が見つけられません。

最高裁も同様に考えており,以下のとおり判示をしています。

相手方(加害者)に賠償責任を負担させることになる以上,「被害者側が提出するあらゆる証拠資料に基づき,経験則とその良識を十分に活用してでき得る限り蓋然性のある額を算出するよう努め,ことに右蓋然性に疑がもたれるときは,被害者にとって控え目な算定方法を採用することにすれば,慰謝料制度に依存する場合に比較してより客観性のある額を算出することができ,被害者側の救済に資する反面,不法行為者に過当な責任を負わせることにもならず,損失の衡平な分担を究極の目的とする損害賠償制度の理念にも副う」としている(最判昭和39年6月24日・民集18巻5号874頁)。

後遺障害逸失利益算定の際に,参考にしていただければ幸いです。

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