成年後見人の辞任(家庭裁判所への辞任許可申立て手続きとその理由・要件について)

高齢などの理由により,本人の意思決定に不安が出てきた場合,本人の意思決定をサポートする制度として成年後見制度があります。

成年後見人は,選任された後,本人(成年被後見人)を代理して様々な事務処理を求められますので,親族後見人となった人の中では,思っていたより大変だったと感じられる方が多いと思います。

では,成年後見人は,事務処理が大変だからといった理由で成年後見人の職を辞することはできるのでしょうか。答えは,辞任できませんです。

以下,その理由について,成年後見人の辞任の可否・要件等を基に検討していきます。

成年後見人の辞任の可否

成年後見人は,家庭裁判所が,本人(成年被後見人)保護の見地から,本人の心身の状態並びに生活及び財産状況,後見人となる者の職業及び経歴並びに本人との利害関係の有無,本人の意見その他の一切の事情を考慮して適任者を選任するとされています(民法843条)。

そのため,最も適任者として選任された成年後見人が簡単に辞任できるとすると,本人(成年被後見人)の利益が害されることにつながりかねません。

そこで,成年後見人は,正当な事由があるときに限り,家庭裁判所の許可(【審判】,家事審判法9条1項甲類15号)を得てはじめて辞任が認められることとされています(民法844条)

成年後見人は,簡単には辞任できないのです。

この点,成年後見人の辞任が認められる正当な事由とは,主に以下のものが挙げられます。

①成年後見にが成年被後見人と遠隔の地に住むため,後見事務の遂行に支障がある場合。

②自己よりも適格性を有する者が現れた場合。

③成年後見人が既に長期間職務を行い,今後その継続を強いるのが過酷な場合(なお,明治民法下では10年以上との具体的な年数の規定がありました,旧民法907条参照。)。

④老齢・疾病・負担加重等により後見事務の適切な遂行上支障がある場合。

⑤成年後見人と,成年被後見人・成年後見監督人・その親族等との不仲。

成年後見人辞任手続き(家庭裁判所に対する2つの申立て)

成年後見人を辞任する場合には,前記のとおり,家庭裁判所の許可が必要となるため,手続きとしては,成年後見人辞任許可申請をする必要がありますが,実務上はこれと併せて後任の成年後見人の選任申立てを行なうこととなります。

①管轄の家庭裁判所に対する成年後見人辞任許可申立て

前記のとおり,成年後見人の辞任許可は,家庭裁判所において行われますので,許可の申請は当然に家庭裁判所にする必要があります。

では,どの家庭裁判所に対して行うかというと,成年後見に関する審判事件の管轄は,成年後見開始の審判をした家庭裁判所にあるとされますので(家事事件手続法117条2項本文),成年後見人の辞任許可申立ても同裁判所に対して行います。

成年後見人の辞任許可申立書は,裁判所ホームページからダウンロードできますので,ご自身で成年後見人辞任許可申立てを行う際は,裁判所ホームページにて必要書類と費用の確認をして行って下さい。

裁判所による事実認定の結果,家庭裁判所が前記のいずれかの事実が認められると判断した場合,辞任許可の審判がなされます。

②後任の成年後見人選任申立て

なお,成年後見人が辞任をしようとする際,新たに成年後見人の選任が必要とされる場合には,新たな成年後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません(民法845条)。

この点,後任の成年後見人選任が成年後見人の辞任の許可要件となるわけではありませんが(複数の成年後見人が選任されている場合などの例外的な場合あり),単独の成年後見人が辞任する場合には,後見事務の空白を防止する観点から,通常,成年後見人の辞任許可の申立ての際に,後任の後見人の選任申立てを求められるのが一般的といえます。

成年後見人辞任許可申立に対して家庭裁判所が判断を下すに際しては,適切な後任の成年後見人候補者の存否もまた重要な判断要素となりますので,成年後見人を自認しようとする場合には,後任の成年後見人候補者の調整を行うことも重要になってきます(後任の成年後見人候補者に心当たりがなければ,弁護士会・司法書士会等を通じて紹介してもらうこともできます。)。

成年後見人辞任後の後任者への引継ぎ

先任の成年後見人が辞任し,後任の成年後見人が選任された場合,後任の成年後見人は,速やかに初回の財産目録を作成して収支を予定しなければならないとされているところ(民法853条1項,同861条1項),同人は,財産目録を作成するまでは急迫の必要がある行為を超えた行為ができません(民法854条本文)。

そのため,本人(成年被後見人)の利益保護のため,後任の成年後見人が直ちに成年後見事務に着手できるよう,先任の成年後見人から,後任の成年後見人に対する速やかな引継ぎが求められます。

専門家後見人に対する厳しい目線もあり,今後,親族後見人の選任が増えていくことが予想されるため,今回は,成年後見人の辞任について考えてみました。

参考にしてください。

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