捜索・差押え(ガサ入れ)の基礎。法律上の根拠や令状・許可状発布要件について

「捜索」・「差押え」という言葉を聞いたことがありますか?

テレビドラマなどで,警察官が,突然とある場所に踏み込んでいって,家探しした後,証拠品を段ボールに詰めて持ち去ってしまうという場面を見たことがあると思いますが,その手続きが捜索・差押えです。

捜索・差押えをされる立場からすれば,突然家や勤務先にやって来た警察官が,家中を荒らしまわった末に強制的に自分にとって大事なものを持って行ってしまうのですから,人権侵害(財産権侵害)も甚だしいとんでもない手続きです。

捜索・差押えとはどういう手続きか

家に踏み込んで証拠品を持ち去る手続きが捜索・差押えと説明しましたが,実は,これは異なる2つの手続きが合体したものです。

強制的に証拠を探す手続きである「捜索」と,見つけた証拠を強制的に預かる手続きである「差押え」の合体手続きです。

余談ですが,任意で証拠を提出されるのは「任意提出(ニンテイ)」,任意提出した証拠を任意で預かるのを「領置(リョウチ)」といいます。

証拠の発見 留め置き
任意 任意提出 領置
強制 捜索 差押え

捜索は,業界的には「ガサ」と呼ばれ,令状のことは「フダ」と呼ばれますので,捜索令状は「ガサフダ」と呼ばれます。

もっとも,捜査機関(警察・検察)は,この捜索令状だけでは,家探しをすることはできても,発見した証拠を持ち帰ることができません。

証拠品を持ち帰るために,捜索令状とあわせて差押え令状も必要となります。なお,なぜか差押えは,業界でもそのまま「サシオサエ」と呼ばれます。

そのため,ガサに入る場合には,捜索(家探しし)に加えて,差押え(証拠品を持ち帰ってくる)が必要となりますので,本来は別物であるはずの捜索と差押えがセットとなり,令状もこれらをセットとして発令されます。

この捜索と差押えが合わさった令状は捜索差押許可状といい,一般には,捜索令状ではなく,この捜索差押許可状がガサフダと呼ばれています。

捜索・差押えはなぜ許されるのか

では,なぜ捜索・差押えが許されるのでしょうか。

財産権は憲法上保障されています(憲法29条1項)。

そのため,捜査機関が,捜索・差押えという財産権侵害行為を行うためには,相当高いハードルをクリアする必要があります。

具体的には,捜査機関が,一私人の居所・勤務先に踏み込んで,物を探して強制的に取り上げたり(捜索),預かったままにする(差押え)をするには,現行犯逮捕をする場合を除いては,裁判所による令状が必要であるとされているのです(憲法35条)。

憲法第35条
1項 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第33条の場合を除いては、正当な理由に基づいて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
2項 捜索又は押収は、権限を有する私法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

捜索差押許可状(ガサフダ)の発布要件

前記のとおり,捜索・差押えは,裁判所の許可がある場合に例外的に行うことができるとされているのですが(憲法35条),この発布要件は,いささか緩やかに設定されています。

具体的にいうと,憲法35条の規定は,さらに刑事訴訟法において具体化されているのですが(刑事訴訟法218条~220条),捜索差押許可状は,「犯罪の捜査をするについて必要があ」れば発布できるとされています(刑事訴訟法218条1項)。

これは,被疑者が「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」が必要とされる逮捕状発布要件(刑事訴訟法199条1項)と比べると,相当に緩やかな条件です。令状発布担当裁判官に大きな裁量が委ねられています。

確かに,身体拘束と家探しでは人権侵害の程度は大きく異なります。

物を持って行かれるより連れて行かれる方が苦痛が大きいことは明らかですので,逮捕状発布要件が,捜索差押許可状発布要件よりも厳しく設定されるのはわかりますが,それにしても捜索差押許可状の発布要件は緩やか過ぎないかという疑問が拭い去れません。

ましてや,捜索差押許可状については,その請求に際し,法律上は差し押さえるべき場所や物を記載して裁判官の判断に委ねなければならないとされているのですが(刑事訴訟法219条1項),実務上,最後に本件に関係ありと思料される一切の文書及び物件等と記載されるのが通例であり,一度捜索差押許可状が発令されてしまうと,現場では何でもありとなってしまうのが実情です。

捜査の必要性を重視するとある程度の幅を持った運用もやむを得ない側面もありますので,何とも言えませんが,弁護士の立場からすると,少なくともきちんとした事後的チェックが必要な問題であるともいえます。

補足:押収拒絶権(刑事訴訟法105条)

前記のとおり,令状に基づいて強制的に行うことができる差押えですが,例外的に,保管者・所持者がこれを拒むことができる場合があります。

それは,本人が承諾した場合,権利の濫用と認められる場合,その他裁判所の規則で定める事由がある場合を除き,医師,歯科医師,助産師,看護師,弁護士,弁理士,公証人,宗教職にある者又は,これらの職にあった者は,業務上委託を受けたために保管し,又は所持する物で他人の秘密に関する物については,押収を拒むことができるとする法律(刑事訴訟法105条)に該当する場合です。

なお,刑事訴訟法105条は裁判所による押収について適用される条文ですが,刑事訴訟法222条1項により検察官・検察事務官・司法警察職員による場合にも準用されていますので,捜査機関による押収(押収とは強制的に占有を移転する手続き全般を含む概念ですので,差押も含みます。)についてもあてはまることとなります。

【閑話休題】
この押収拒絶権については,カルロス・ゴーン氏の事件の件で,令和2年1月に,検察官が,捜索差押え令状を基に,弁護人であった弘中弁護士所属の法律事務所に対して,ゴーン氏が利用していたパソコンなどの捜索・差押え手続きに行ったものの,同弁護士より押収拒絶権を行使されたという出来事があったため一時期話題となりましたので,聞かれたことがあるかもしれません。



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