採用内定取消しの法律上の位置づけ(意義・要件・効果等)について

世間では,新型コロナウイルスの蔓延によって政府より自粛要請が出された結果,日本における経済活動が縮小して多くの企業・経営者の業績が悪化しています。

そして,業績悪化に伴い,多くの企業において採用予定であった者の採用取消しがが行われているようです。

では,この企業の業績悪化に伴う採用取消しがなされた場合,採用内定者はどうすればよいのでしょうか。

以下,採用内定の法的性質,内定取消しの要件,内定取消無効の効果の順に,できるだけわかりやすく採用内定取消しの意義について説明します。

採用内定の法的性質

採用内定の法的位置づけについては,従来様々な解釈がありましたが,現在では始期付解約権留保労働契約成立説をとることがほぼ確立しています(大日本印刷事件判例・最判昭和54年7月20日・民集33巻5号582頁,電電公社近畿電気通信局事件判例・最判昭和55年5月30日・民集34巻3号464頁)。

一言でいうと,内定により労働契約(始期が定められ,かつ解約権が留保されたもの)が成立したと考えられています。

なお,採用内定の法的効力について少し詳しく,かつできる限り簡単にまとめると以下のようなものと考えられています。

① 企業の募集は,労働契約締結のための誘因行為である。
② 労働者の応募は,企業に対する労働契約締結の申込みである。
③ 企業による採用内定通知は労働契約承諾の意思表示である。
④ 申込み・承諾の各意思表示により始期を入社日とする労働契約が成立するが,双方に内定期間中に採用を不都合とする事由が生じたときは労働契約を解約する旨の解約権を留保されている。

なお,余談ですが,近日では,企業の採用活動では,採用内々定→採用内定→正式入社の流れとなるのが一般的です。

この点,前記のとおり,内定の有無によって労働契約が成立すると考えますので,内定に至っているのか,内々定にとどまるのかによって法的に大きな違いが生じます。

具体的には,採用内定の取消しについては取消し自体に以下のとおりの厳しい制限が課せられまた債務不履行責任が問われ得ますが,採用内定の取消しについてはせいぜい期待権侵害又は契約締結上の過失が問われるにとどまるという違いがあります。

採用内々定の取消しについては別稿に委ね,本稿では,以下,採用内定の取消しについて検討します。

採用内定の取消しの法的性質

採用内定を始期付解約権留保付労働契約と考え,解約留保権が留保されているとする以上,採用内定の取消しは,この留保された契約解約権の行使が適法といえるかの問題となります。

①内定取消事由1:社会通念上相当なもの

内定取消事由(解約事由)は,通常,採用内定通知書等に記載された取消事由を参考にして決められることとなるのですが,抽象的記載であることも多く,判例は,解約権の留保の趣旨,目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限り」有効としています。

虚偽申告の場合等がこれにあたります。

②内定取消事由2:経営悪化

また,企業経営の悪化を理由とする内定取り消しもあり得ます(新型コロナウイルス等の伝染病蔓延の場合の内定取消し事由はほとんどがこの経営悪化です。)。

採用企業の経営が悪化している場合には,企業側には新規採用をする余裕がないはずですが,他方で,採用内定者側も,内定(労働契約締結)により他に就職することができない地位に置かれているため,一方的な内定取消しを認めることは酷となります。

そこで,裁判例では,企業の経営悪化を理由として採用内定取消しをする場合には,いわゆる整理解雇の有効性の判断要件(①人員削減の必要性,②手段としての整理解雇の必要性,③被解雇者選定の合理性,④手続きの妥当性)を充足する場合に限り有効とすると考えるのが一般的です。

内定取消しが無効とされた場合の法的効果

最後に,新型コロナウイルス等の伝染病蔓延によって経営悪化したため,内定の取消しをしたものの,裁判にて当該内定取消しが無効であると判断された場合,どういう法的効果を導くか検討しましょう。

内定取消しが無効とされた場合,労働契約が維持されますので,内定者は当然労働契約上の権利を有することとなります。

そのため,労働者としての地位が保全されて勤務をする権利を有します,

また,取消しがなされるまでの賃金の支払い請求権をも取得します。

さらに,場合によっては,債務不履行責任(誠実義務違反)や不法行為に基づく損害賠償責任(期待権侵害)を追及し,慰謝料等の請求を行うことも可能です。

参考にしてください。



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