民事訴訟における釈明権・求釈明とは何か?

代理人として民事訴訟を担当すると,結構な頻度で,相手方から,何らかの事実の確認を求められたり,何らかの証拠の提出を求められたりします。

また,他方当事者から質問がなされた場合に,多くの裁判官は,相手方がこういう質問をしているので回答をお願いしますなどと言ってきます。

実務上,当たり前のように繰り返されるやり取りですが,法律的にみると結構問題です。

どういうことか説明します。

原則:民事訴訟での主張・証拠の提出は当事者の権能

民事訴訟では,訴訟の開始・訴訟物の特定・訴訟の終了についての決定権限は当事者にゆだねられており,裁判所がこれに反した裁判をすることはできません(処分権主義)。

また,民事訴訟における訴訟資料の収集・提出は当事者の権能かつ責任とされています(弁論主義)。

そのため,民事訴訟においては,裁判所は,当事者が主張しない事実を判決の基礎としてはならず,当事者間に争いのない事実はそのまま判決の基礎としなければならないとされています。

すなわち,民事訴訟手続きは,徹頭徹尾当事者の意思が反映されながら追行されていくのが大原則であり,法律上,主張の構成や,それを基礎づける証拠の選択などについて裁判所がこれに関与することは許されていません。

裁判所(裁判官)による釈明権・釈明義務

釈明権の意義

もっとも,民事訴訟における主張・立証を完全な当事者の自由意思に委ねると,不公平となったり,訴訟審理上の問題が生じたりする場合があり得ます。

不公平となる例としては,一方当事者に代理人弁護士が就任しているものの,他方当事者には代理人弁護士が就任せずに法的知識のない当事者が訴訟追行している場合などがあります。

また,裁判所審理上の問題としては,当事者から提出された主張・証拠が不明瞭であるためにそのまま進行すれば訴訟遅延が予想される場合に当事者の主体的な準備を促す場合などがあり得ます。

このような場合には,事実関係や法律関係を明らかにするため,「裁判官(裁判所)が」,当事者に対して,事実上の又は法律上の事項に関する質問を発し,又は立証を促すことができるとされています(民事訴訟法149条1項,2項)。これを釈明権といいます。

釈明権の種類としては,①当事者の不明瞭な主張を問い質す消極的釈明と,②当事者に必要な申立てや主張を示唆・指摘する積極的釈明とがあります。

民事訴訟法149条1項
裁判長は、口頭弁論の期日又は期日外において、訴訟関係を明瞭にするため、事実上及び法律上の事項に関し、当事者に対して問いを発し、又は立証を促すことができる。

なお,細かい話ですが,正確に言うと,裁判所が当事者に対して行うのが「求釈明」であり,求釈明に応じて行う当事者の対応を「釈明」です。

釈明義務

この釈明権の行使は,裁判官の権利であるとともに,一定の場合には義務とされると解釈されています(釈明義務)。

小難しく言うと,裁判所には,事案の解明は当事者の権利でもあり義務でもあるが,弁論主義の形式的な不合理を修正し,当事者に実質的な弁論の機会を保障して,充実した心理を実現すること及び事案解明の停滞に起因する心理の遅延・混乱を回避する義務があり,この義務の履行として,適切な釈明権行使が求められていると考えられています(釈明義務)。

釈明権の限界

この裁判所の釈明権は,無制限に可能か(裁判所は何をしてもいいのか。)というとそうではありません。学説上,釈明権には限界があると考えるのが一般的です。

釈明権行使については,その時期・範囲・方法・態様のいずれもが適切なものでなければならないとされています。

なお,釈明権の行使・不行使については違法行為となり得ることもあり,判例上,主張と証拠の不一致についての釈明権不行使を違法とした例(最判昭和36年12月22日・民集15巻12号2908頁),損害額の立証を促すことなく証明なしとした原判決を破棄した例(最判昭和39年6月26日・民集18巻5号954頁)や,当事者の法律構成が不十分な場合に合理的意思解釈から可能な法律構成につき主張立証を尽くさせることなく請求を排斥した原判決を破棄した例(最判昭和44年6月24日・民集23巻7号1156頁)等があります。

(参考・類似制度)釈明処分

裁判所には,釈明権のほか,訴訟関係を明確にするために,適切な処分をする権限が認められています。

これを釈明処分といいます(民事訴訟法151条)。

参考までに。

当事者による求釈明

当事者による釈明権は存在しない

前記のとおり,裁判官は,当事者に対して,事実上の又は法律上の事項に関する質問を発し,又は立証を促すことができます。

ところが,「一方当事者が」,他方当事者に対して,事実上の又は法律上の事項に関する質問を発し,又は立証を促すことはできません

このようなことを認める法律の規定がないからです。

当事者による本来的釈明方法:求釈明

前記のとおり,一方当事者は,他方当事者に対して,事実上又は法律上の事項の質問をしたり,立証を促す権限はありません。

もっとも,一方当事者は,裁判所に対して,裁判所が有する釈明権の発動・行使を促し,裁判所より他方当事者に対して,事実上又は法律上の事項の質問をしたり,立証を促してもらうことはでき得ます

これを求釈明といいます(民事訴訟法149条3項)。

求釈明の対象は,相手方当事者ではなく,あくまで裁判所です。そのため,釈明権についての職権発動を行うか否かも,裁判所の専権として決せられます。

民事訴訟法149条3項
当事者は、口頭弁論の期日又は期日外において、裁判長に対して必要な発問を求めることができる。

実務慣行:事実上の当事者の釈明権

ところが,裁判実務上は,一方当事者が他方当事者に対して直接に問いを発し,相手方がこれに対応することがよく行われます。

法律上,このようなやり取りは予定されていないのですが,多くの弁護士が慣行として行っており,ほとんどの裁判所も事実上これを容認していますので,一方当事者から他方当事者に対する事実上の釈明権行使が実務慣行として定着しています。

最後に(当事者による事実上の求釈明に対する私見)

事実上の求釈明が,事案の解明や迅速な訴訟追行に資する場合もありますので,法が予定していないものとはいえ,一概にこれを禁止することがいいとは思いません。

もっとも,事実上の求釈明をしてこれに相手方当事者が回答しないことをもって,裁判所の自由心証を有利に持っていこうとするために行われるものも散見されます。

また,自身で主張・立証の組み立てが不十分であるとして,相手方から何らかの事実・証拠を引き出そうとして探索的に行われる場合もあり,明らかに不適切と言える場合も往々にして見られます。

以上のような,不適切と認められる事実上の求釈明には,裁判所による一定の規制は必要ではないかと考えます(少なくとも,回答拒否を不利益に斟酌することは避けていただきたいと考えています。)。

参考にしてください。

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