民事通常訴訟における当事者の合意による必要的移送の時期的制限

民事裁判を提起する際,審理を求める裁判所については,原告側が,管轄権を有する裁判所の中から1つ選んで決定します。
そのため,民事訴訟においては,訴え提起時に原告において選択された裁判所で第1審の審理・判決がなされるのが原則です。

もっとも,第1審が始まった後でも,原告・被告双方の合意により,係属する裁判所が変更することができます。

必要的移送と呼ばれるものです(民事訴訟法19条)。

【参考】

第1 通常事件の必要的移送とその制限

1 必要的移送(第1回口頭弁論前)

民事訴訟法19条1項本文は,通常事件(不動産関係事件以外の事件)については,一方当事者の申立てと相手方当事者の同意がある場合には,係属中の第一審裁判所は,訴訟を必ず申立てがなされた裁判所に移送しなければならないと定めています。

この当事者の同意による移送は,必要的・義務的であり,裁判所の裁量によってこれを拒否することはできません(必要的移送申立の却下は,即時抗告による取消しの対象となります。)。

その趣旨は,民事訴訟法11条で当事者の合意による管轄を認め,民事訴訟法12条で被告の応訴による管轄創出を認めていることから,訴え提起後についても,管轄についての当事者の合意を尊重することにあります。

すなわち,第1回口頭弁論前は,理論的には,以下のパターンの必要的移送が可能です。

簡易裁判所→同管轄地方裁判所,異管轄地方裁判所,異管轄簡易裁判所
地方裁判所→同管轄簡易裁判所,異管轄地方裁判所,異管轄簡易裁判所

2 必要的移送の制限(第1回口頭弁論後)

もっとも,審理が本格的に始まった後に当事者の意思による移送を無条件に認めることは,訴訟遅延を招くばかりか,当事者の意思による事実上の裁判官の忌避が出来てしまうことになるため,妥当ではありません。

そこで,第1回口頭弁論があり,被告が本案について弁論をし,又は弁論準備手続きにおいて申述した後は,簡易裁判所から,同管轄の地方裁判所への移送に限ってこれを認めることとされています(民事訴訟法19条1項ただし書き)。

第1回口頭弁論後は,以下のパターンの必要的移送が可能です。

簡易裁判所→同管轄地方裁判所
地方裁判所→×

3 必要的移送の制限(審理が相当進んだ後)

前記訴訟経済を図るという理は,審理が相当進んだ場合には,より強く要請されます。

そこで,審理が相当進んだ後等,移送により著しく訴訟手続きを遅延させることとなるときは,当事者の同意による必要的移送そのものが制限されます(民事訴訟法19条1項ただし書き)。

審理が相当進んだ後は,当事者の合意による移送自体が否定されます。

審理が相当進んだ後(移送により著しく訴訟手続きが遅延する場合)は,必要的移送は認められません。

簡易裁判所→×
地方裁判所→×

第2 参考(不動産関連事件の必要的移送)

なお,以上の通常事件とは別に,不動産関係訴訟については,別の必要的移送の規定が存在します。

すなわち,簡易裁判所に不動産関係訴訟が提起された場合,被告が本案において弁論する前は,被告の申立てがあれば,原告の同意なくして,訴訟を同管轄地方裁判所に移送しなければならないとされています(民事訴訟法19条2項)。

その趣旨は,不動産関係訴訟は,簡易裁判所と地方裁判所の競合管轄である場合があるが(裁判所法24条1号),訴額に関係なく複雑困難な事件であることが多く,当事者の一方が望めば地方裁判所による審理が可能とすべきであるとの配慮によるものです。なお,原告による必要的移送を認めていないのは,原告が地方裁判所での審理を望む場合は,訴え提起の段階でそれを選択すれば済むからです。)。

参考にしてください。


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