相続人がいない状況で被相続人が死亡した場合に所有不動産の処分はどうするのか

人は,必ずいつか死亡しますが,死亡したとしてもその人が生前に有した権利・義務は消滅しません。

そこで,亡くなった人=被相続人の死亡により,同人の権利・義務を誰かが引き継ぐことになります。

この点,現在の日本では少子化が進んでいるため,個々人の推定相続人の絶対数が減っています。

そのため,亡くなられる方のうち一定数の方は,相続人なく死亡されます。この傾向は今後も継続・拡大見込みです。

では,相続人なく亡くなられた方が不動産を所有していた場合,この不動産はどのように処分されるのでしょうか。相続人なく死亡された方の財産がどのようになって行くのかから順に説明したいと思います。

被相続人が相続人なく死亡した場合に相続財産はどうなるのか

相続財産法人の成立

死者には人格が認められないため,被相続人は,死亡により権利・義務の帰属主体ではなくなってしまいます。

被相続人が死亡した場合,相続人がいない場合(または,いるかどうか明らかでない場合)には,同人が有していた権利・義務が宙に浮いてしまうこととなります。

これによって法律的な不安定を生み出してしまいますので,法は,被相続人が相続人なくして死亡した場合,相続財産は相続財産法人となり独自の法人格を持つと擬制することにしました(民法951条)。

一見すると相続財産が固まって法人となるなど奇妙に思えますが,このように解釈しないと相続財産の全てが所有者のいない無主物となってしまい,妥当な結論が導けなくなってしまいますので,テクニック的ではありますが,法は,相続財産自体が法人となるとして,独自の法人格を持つことを擬制し,その法人が相続財産を所有するとしたのです。

相続財産管理人選任

前項によって相続財産法人が成立した場合であっても,法人となるのはあくまでも概念であり,実際はフィクションです。実体はありません。

そこで,相続財産法人が有する相続財産の管理・処分が必要となった場合であっても,法人が存在するだけではこの実務を処理できませんので,必要に応じて実務処理担当者を設けるため,利害関係人又は検察官の請求によって相続財産管理人が選任されます(民法952条1項)。

相続財産管理人は,相続財産法人の代理人となり(民法956条1項等参照),権限の範囲内で同人が行った行為は,相続財産法人にその効果が帰属します(民法99条1項)。

ここで,相続財産管理人の代理権の範囲について検討すると,相続財産管理人には,不在者財産管理人と同様の地位が与えられますので(民法953条,同27~29条),相続財産管理人は,保存行為及び物や権利の性質を変えない範囲での財産利用・改良行為をなし得ます(民法952条1項,同28条,同103条)。

他方で,相続財産管理人が,保存行為及び物や権利の性質を変えない範囲での財産利用・改良行為を超える行為を行おうとする場合には,家庭裁判所の許可が必要となります(民法953条,同28条)。

相続財産管理人が相続財産法人帰属の不動産を売却するための手続き

前記のとおり,相続財産管理人が自身の意思で行える代理行為の範囲は,保存行為及び物や権利の性質を変えない範囲での財産利用・改良行為の範囲にとどまりますので,同人が相続財産法人に帰属する不動産(被相続人が所有していた不動産)を売却するためには,家庭裁判所の許可が必要となります。

許可を得るためには,相続財産管理人が,当該不動産の市場価格が明らかとなる資料とともに,売却予定価格と売却予定先を明示した資料(通常は,参考資料と契約書案となります。)を添付して,裁判所に許可申立てをします。

なお,このときに,売却予定不動産内に家電製品・生活用品・仏壇等が残っていれば,経済的価値がなくてもあわせて家庭裁判所の許可を得て廃棄処分をするのが簡便です。

家庭裁判所の許可が出れば,あとは通常の不動産売買と同じ手続きで決済を行って,不動産を売却します。

以上,簡単な説明ではありましたが,参考にしてください。

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