老朽化した建物の賃貸借契約を賃貸人側から終了させる方法(当然終了主張・解約申入れ・更新拒絶)

我が国では,建物に瑕疵があることにより,第三者に損害を与えた場合には,まずは占有者が過失責任を負い,占有者に過失がないときは所有者が無過失責任を負うとされていれています(民法717条,工作物責任)。

ここでいう建物の瑕疵は,設計上のものにとどまらず,老朽化によって建物が本来有すべき性能を有しなくなった場合も含みますので,建物を所有し,これを賃貸している賃貸人の方は,その所有の賃貸建物が老朽化してくると,建物自体への不具合が発生するだけでなく,その不具合から賃借人又は第三者に損害を与え,結果として自身への損害賠償請求がなされるのではないかという不安を感じられることがあります。

そのため,賃貸建物が老朽化した場合,その建物を所有する賃貸人は,賃借人に退去してもらって,建物を取壊す又は再築することを希望されるのが通常ですが,賃借人の方が退去に応じてくれない場合,事実上,老朽化した賃貸建物を取壊し又は再築することができません。

そこで,賃貸人が,老朽化した賃貸建物から賃借人を退去させる手続きが問題となります。

建物の朽廃・滅失を理由とする賃貸借契約の当然終了

賃貸人の方が,賃借人の方に退去してもらう法律構成として,一番簡単なのは,建物の老朽化それ自体を理由として,建物賃貸借契約が終了してしまうとすることです。

そこで,建物の老朽化自体が賃貸借契約の終了事由となるか検討します。

この点については,最高裁は,建物自体が滅失又は朽廃してその効用を失ったときは建物賃貸借契約の目的が不能となり,建物賃貸借契約は当然に終了するとしていますので(最判昭和32年12月3日・民集11巻13号2018頁,最判昭和42年6月22日・民集21巻6号1468頁),これを理由として,当然終了を主張することができえます。

なお,「建物の朽廃」とは,経年変化により,建物の社会経済的効用を失う程度に腐朽損壊することをいい,「建物の滅失」とは,風水害・火災等によって建物の社会経済的効用を失う程度に損壊することをいいます。

簡単にいうと,ゆっくりと朽ちた場合が朽廃で,一気に損壊した場合が滅失です

もっとも,建物の滅失又は朽廃を理由として賃貸借契約の終了を認めるのは,一般に建物の損傷が著しくて居住に耐えられないなどその効用を失ったと評価しえ,かつ仮に修繕するとしても通常の修繕費用で賄うことは出来ず新築に匹敵するほどの費用を要するなどといった極めて厳しい要件を充足する必要があります。

参考までに,滅失又は朽廃を肯定・否定した裁判例をいくつか紹介します。

【滅失・朽廃を肯定した裁判例】 
① 最判昭和32年12月3日・民集11巻13号2018頁
建築後年数が経過し,戦災を経た関係上,いつ崩壊するかわからなくなっている土蔵について朽廃と認めた。
② 最判昭和35年3月22日・民集14巻4号491頁
建築後60年以上経過し,屋根瓦が落ち,雨漏りも多く,柱・土台が腐食し,壁が崩壊していた倉庫について朽廃と認めた。
③ 最判昭和42年6月22日・民集21巻6号1468頁
大正末期に建築され,その後2階部分が隣家からの類焼によりほとんど損傷した2階建て建物について滅失を認めた。

【滅失・朽廃を否定した裁判例】
① 最判昭和33年10月17日・民集12巻14号3124頁
柱・桁・屋根等に多少の腐食はあるものの,自力で屋根を支え,独立に地上に存立しており,内部への人の出入りに危険を感じさせない木造家屋について朽廃を認めなかった。
② 最判昭和43年12月20日・民集22巻13号3033頁
建物の土台の一部が低下し,柱の一部も土台との接合部が腐食していることから,建物が傾斜している築100年以上経った木造建物につき,適切な補修を加えれば,なお相当期間その効用を果たしうるとして,朽廃を認めなかった。

解約申入れ・更新拒絶

前記のとおり,建物自体が滅失又は朽廃してその効用を失ったときは建物賃貸借契約は当然に終了するのですが,その判断はかなり厳格であるため,これを理由として賃貸借契約の終了を求めていける場合はそれほど多くありません。

また,建物の滅失又は朽廃を理由として賃貸借契約の終了に基づく建物退去請求をした場合,反対に賃借人側から,建物修補請求の反論がなされる場合もあり,賃貸人側から主張するには,一定のリスクもあります。

そのため,建物老朽化を理由として,賃貸借契約を終了させるため,賃貸借契約の解約申入れを行うか,期間満了の場合に更新拒絶の方法をとることが現実的な方法となります。

具体的に言うと,建物賃貸借契約は,正当事由がある場合には解約申入れができ(借地借家法27条,28条),また建物賃貸借契約の更新拒絶ができますので(借地借家法26条,28条),建物の老朽化が進んでいる場合には,建物の朽廃の時期が迫っていることを正当事由の1つとして,解約申入れ又は更新拒絶を行うこととが一般的です。

もっとも,正当事由の判断は,賃貸人の事情のみならず,賃借人の事情も合わせて総合的に判断されますので,建物の老朽化が進んでいることのみをもって正当事由が認められるわけではありませんので,注意が必要です。

実際には,立退料を支払うことによって正当事由を補完することが多いと思います。

疑問点がありましたら,お近くの弁護士にご相談ください。

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