交通事故は,必ずしも自動車,二輪車,自転車,歩行者の間において発生するわけではありません。
場合によっては,車両が,店舗や自宅に突っ込んでくることもあり得ます。
加害者が,交通事故により損壊された店舗・事務所自体の修理代の負担をしなければならないのは考えるまでもありません。
では,自動車等が店舗・事務所に突っ込んできたことにより,やむなく事業を休業しなければならなくなった場合(発生した交通事故によって店舗・事務所等が損傷して修理が必要となった場合等),営業を休止期間中の損害賠償はどのように扱われるでしょうか。
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交通事故に起因する営業損害の考え方
営業損害についての基本的な考え方
自動車等が店舗・事務所に突っ込んでくる交通事故に遭った場合,店舗や事務所の修理のために営業を休止すると,当然に当該事業者の売り上げが減少しますので,それに伴って営業利益が減少します。
そこで,被害事業者が被った営業損害については,当然に加害者がその賠償義務を負います。
もっともその範囲については注意が必要です。
ここでいう営業損害とは,得られるはずだった売上げではなく,得られるはずだった利益をいいます。すなわち,営業損害の賠償とは,売上げ填補ではなく,利益の填補をいいます。
そのため,実際には,営業損害は,事故がなければ得られたであろう売り上げを計上した上で,営業を休止したことにより免れた経費を引いて計算することとなります。
営業損害についての実務上の運用
交通事故により店舗・事務所を損壊された事業者は,被害感情も相まって,あれやこれやと事故とは無関係の主張をしがちです。
もっとも,被害事業者が主張される売上げ減額は,必ずしもその全てが交通事故が原因であると言い切れない場合もあります。
そこで,被害事業者の営業休止期間の認定や休止期間における損害額については,一定の厳格な証明が求められるのが通常です。
また,営業を休止したことにより支払いを免れた経費の認定についても,細かくこれを行って損害から控除しなければなりません。
実務的には,事故前3か月間の平均利益を基礎に,店舗・事務所の修理に必要な相当期間を算定して損害を算定することが多いのではないでしょうか。
以下の裁判例を参考にしてみてください。
営業損害認定事例裁判例
飲食店の場合
① 大阪地判昭59年3月15日・交民集17巻2号391頁
飲食店の壁が車の衝突により損傷した事案で,事故前3か月の平均利益を基礎として7日間分の営業損害を認めました。
駐車場精算機の場合
① 東京地判平成29年1月18日・自保ジャーナル1995号178頁
駐車場精算機による営業損害と因果関係のある休業損害を73日と認定しました。
洗車機の場合
① 大阪地判平11年7月7日・交民集32巻4号1091頁
車の接触により洗車機が破損した事案で、事故前3か月の使用料金から1日当たりの売上を算出した上で,14日間分の営業損害を認めました。
補足(派生損害)
① 大阪地判平成10年9月28日・自保ジャーナル1306号3頁
喫茶店にダンプカーが突っ込んできたために店舗が損壊した事案で,店舗の修復を終え,営業再開にあたって生じた宣伝広告費20万円の認定をしました。