自賠責保険は,交通事故被害に遭って死亡された又は怪我をされた方に対して,簡易かつ迅速に損害賠償金の支払いが行われるようにするため,自動車損害賠償保障法(以下,「自賠法」といいます。)に基づいて,運行の用に供する全ての自動車に付保を義務付強制保険です(自賠法3条,5条)。
交通事故加害者に,任意保険会社が付保されていれば,自賠責保険に対する請求手続きは問題とならなことも多いですが,加害者側に任意保険がない,または加害者側が任意保険対応をしてくれない等の場合には,被害者自ら自賠責保険への請求手続きを取ることが必要となります。
そこで,本稿では,自賠責保険に対する被害者請求による自賠責保険金の請求方法と,自賠責保険制度についての説明をしたいと思います。
【目次(タップ可)】
自賠責保険金の請求手続き
自賠責保険金の請求手続きは,大きく分けて2つあります。
1つは,交通事故に遭われた被害者が,自ら加害者側の自賠責保険会社へ請求する手続きであり(被害者請求,自賠法16条1項),もう1つは,加害者が被害者に対して支払った賠償金を,自身の自賠責保険会社に請求をする手続きです(加害者請求,自賠法15条)。
以下,順に見ていきましょう。
被害者請求の手続き
被害者請求による自賠責保険金の請求手続きは,以下の①から④に従って進めていただくことになります。不足があれば,後日,自賠責保険会社から追完指示がなされます。
①加害車両に付保された自賠責保険会社を特定する
請求する自賠責保険会社が特定できていなければ,そもそも請求をなしえませんので,まずは,相手方の自賠責保険会社がどこかを確認する必要があります。
相手方が教えてくれるのであればそれを聞いても結構ですが,自賠責保険会社及び同証明書番号は,事故証明書に記載されていますので,自動車安全運転センターから事故証明書を取り付けていただき,確認いただければすぐにわかります。
②自賠責保険金請求セットを取り付ける
相手方の自賠責保険会社がわかったら,インターネット等で,同社の自賠責保険課の電話番号を調べて電話をかけ,自賠責保険金請求セットを送付してもらってください。
③自賠責保険金請求セットの中に入っている自賠責保険金請求書等を作成するとともに,請求する費目に対応する添付書類を作成又は取り付ける
自賠責保険金請求セットには,自賠責保険金請求についての説明書と請求に必要となる各種用紙が入っています。
そこで,説明書に従って書類を請求書等の各種用紙を作成するとともに,その根拠となる添付書類を取り付けます。
④請求書と添付書類を相手方自賠責保険会社に送付する
加害者請求の手続き
加害者請求による自賠責保険金請求手続きは,加害者又は加害車両付保保険会社が行うため,交通事故被害者が特別に何らかの手続きを行う必要はありません。強いて言えば,加害車両付保保険会社が送付してくる同意書にサインする位です。
支払いを受けられる自賠責保険金額
保障の範囲
自賠責保険による補償の範囲は,人的損害のみであり,物的損害に対する自賠責保険による補償はありません(自賠法1条)。
もっとも,物的損害であっても,応急処置に要した費用(搬入具代等)や,身体機能の補完物(義肢・松葉杖・眼鏡・補聴器等)については,人的損害に準じるものとして,自賠責保険による補償の対象となります。
支払い保険金額の上限
(1)1事故での1名に対する上限額
①死亡に対する上限補償額:3000万円
②傷害に対する上限補償額:120万円
③後遺障害に対する上限補償額:後遺障害等級に応じて75万円~4000万円
(2)被害者複数・加害者複数の場合の上限額
なお,前記上限額は,1事故についての被害者1名ごとのものであり,被害者が複数の場合は,それぞれに限度額まで支払われます。
また,加害者が複数(共同不法行為)の場合には,加害車両の台数分を乗じた額が上限となります。
過失減額
自賠責保険金は,被害者側に過失があったとしても,その過失割合どおりの減額がされるわけではなく,被害者側に7割以上の過失があった場合に限り,以下のとおりの過失減額がなされます。
なお,傷害による自賠責保険金については,20万未満の場合は過失減額がされず,また過失減額により20万円以下となる場合には20万円とすることになります。
被害者の過失割合 | 自賠責金(後遺障害・死亡) | 自賠責金(傷害) | |
7割未満 | → | 減額なし | 減額なし |
7割以上8割未満 | → | 2割減額 | 2割減額 |
8割以上9割未満 | → | 3割減額 | 2割減額 |
9割以上10割未満 | → | 5割減額 | 2割減額 |
10割 | → | 支払なし | 支払なし |
自賠責保険金の支払いがなされない場合
以下の各場合には,自賠責保険金が支払われないこととなります。
①加害者が責任を負わない場合
②被害者側の故意による事故の場合(自賠法14条)
③被害者側の過失が100%の場合
④消滅時効期間が満了している場合(自賠法16条)
補足
自賠責保険金の遅延損害金発生時期
自賠責保険金は,請求権者が自賠責保険会社に対して自賠責保険金の請求をした後,自賠責保険会社が「自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間が経過」したときから,5%の遅延損害金が発生するとされています(自賠法16条の9)。
支払われた自賠責保険金の充当関係
自賠責保険金の支払いがなされた場合,支払われた当該自賠責保険金は,法定充当の規定である民法491条に従い,まずは遅延損害金に充当され,その残金を元本に充当するのが最高裁判例です(最判平成16年12月20日・判タ1173号154頁)。
もっとも,遅延損害金の充当をした後に元本充当をするのは煩雑であるため,訴訟においても,和解で終わる場合や,原告側から遅延損害金から充当する旨の主張がない場合では,元本から充当して処理をすることが多いのが実務上の運用といえます。